「あ、茜が・・・・。花でも食べさせた方が良いって・・・・・。だから言われた通り、花を拾って、俺はウサギに花を食べさせた・・・・。俺は、茜にやれって言われたからやっただけなんだ!」

それは空耳ではなく、現実の言葉だった。

私はすぐに隣の葵を振り返る。

・・・・・・・。

するとそこには手や唇は震え、まるで『しまった!』言っているような、脅えた表情を浮かべている葵の姿。

そんな彼の表情を見た私は、理解出来ずに真っ青な表情に変わった。
その信じたくない現実は、すぐに理解出来た。

でも葵の言葉は事実だ。
葵は何一つ、間違った事を言っていない。

私はウサギに興味など無かった。
だからこその、投げやりの言葉。

『花でもあげてみたら?その辺の』

その投げやりの私の言葉がこの葵の発言だ。
全て事実だから、私は何も言い返せずうつ向いた。

そして、事実を知った黒沼先生は話を進める。

「江島。先に教室へ戻っていろ」

黒沼の言葉に、葵は逃げるようにこの場を去っていく。
そしてその光景は、高校生になった今でも覚えている。

笑ったような、まるで『ざまあみろ』と言っているような、不気味な葵の笑顔が私の視界に映った。
それが応接室から出ていく葵の顔。

それが葵の出した答えだった。
つい数分前までの親友としての関係を、まるで真っ黒なペンキで滅茶苦茶に落書きをしたように。

そしてそれは私の心も同じだった。

真っ黒に、漆黒に染まりあげていく葵との思い出。

同時に『私たちの関係ってそんなもんなんだ』って思わされた。

頭と思い出を巨大なハンマーでかち割られたような気分だった。

その後も私は黒沼先生に酷く問い詰められたが、結局何も答えなかった。

恐怖と悲しさの嵐に飲み込まれて、答える余裕なんてなかった。

そして何も答えない私を見て、今回の話は終わり。
浮かない表情で教室へ戻る私と黒沼先生。