「だって紗季みたいじゃん。何て言うか、いつもニコニコしていて、ただの優しい人かと思ったら、その正体は運動以外何でも出来ちゃう天才。ペンギンって陸ではよちよち歩くのに、海に潜ると凄く速いんだって。人は見かけによらないよね」

って私が言っても、小緑の表情は変わらない。

「でもペンギンって。なんか」

「うっさいな。私が見に行きたいの!早くいくよ」

小緑の言葉を書き消すように、私は小緑の背中を押した。
少し小緑は嫌がるように見えたが、やがて彼女は自分の足で歩き出した。

私達は一緒にペンギンのいる場所へ向かう。

小緑がずっと見ていたピラニアの水槽には餌とされたアジの姿はない。
その変わりにあるのは白骨化した三匹の魚の形をした骨だけが残っていた。

海の世界は弱肉強食で本当に怖い。

でも人間の世界も弱肉強食だと私は思う。
例えそれが家族と言う関係でも、人という生き物は容赦しない。

人は他人の短所を突いてくる生き物。
批判や中傷的な言葉を浴びせて精神的にダメージを与えたら、その人間の立ち位置を奪う人もいる。

弱い意思の人間なら、なおさら狙われやすい。

それと『誰かのために』なんて人は表向きには言っているが、結局は自分が一番可愛い。

もし目の前に人を襲う巨大な怪獣が現れたなら、人は大切な人を捨ててまで自らは生きようと試みるだろう。

例えどんな正義を言葉を並べたり、誰かを守るような行動をしても、結局は『自分の命が一番大切』と言う結論に結び付く。

それが別に悪いとは思わない。
それが『人間の生きる本能なんだ』と思えば、私は『仕方ない』と納得する。

多分殆どの人間がそのように作られていると思うし。
弱肉強食の世界も、その『生きる本能』あるからこそ『勝手に出来てしまった世界観』だと私は思うし。

だけどその世界観に当てはまらないのが山村紗季(ヤマムラ サキ)という私の親友だ。

自分の事はいつも二の次で、誰に対しても腰が低く、他人を中傷するところを見たことがない。

それに自分は病気を抱えているのに、誰もやりたいと立候補しなかったクラスの委員長に手を上げる女の子だ。
正直言って、紗季はおかしい。

そんな紗季に『こっちゃんと一緒にペンギンショーを見てきたら?』って提案された。

話は戻って、お昼頃の話だ。