「僕ね、家族にハブられているんだ」

一瞬なんのことか分からなかった。
でもすぐにその言葉を理解すると、私は問い掛ける。

「紗季もアンタのこと嫌いなの?」

「もちろんです。絶縁するほど」

本当にそうなのかな?
この前の夏祭り、どこからどう見ても仲のいい姉妹にか見えなかった。

「何で?」

「言いましたよね?僕は成績悪い馬鹿だから。テストの点数が悪いから、テストのたびに親から怒られています」

小緑は大量の小さなピラニアが泳ぐ水槽を眺めている。
その水槽に三匹の生きたアジが入れられた。

小緑は続ける。

「だからいつもいつもさきねぇと比較された。『どうして紗季は出来て、お前は出来ないんだ』って言われた。『紗季を見習え』って本当にうるさい。僕自身勉強の内容がわからないだけなのに」

その話を聞いて確かに小緑が可哀想だと思った。
人には得意なものと苦手なものがあるし。

だけど話を聞く限りでは小緑が努力しているようには見えない。

わからないなら紗季に聞けばいい。
親に聞けばいい。

私もそうやって難を乗り越えた。
ピアノでも、わからなかったらピアノ教室の先生に聞いた。

そして私は成長できた。

というか、それが当たり前でしょ?
近くに勉強を教えてもらえる人がいるだけで良いことじゃん。

私なんてお兄ちゃんの帰りは遅いし、仕事から帰ってもすぐに缶ビールを開ける姿に何も言えないのが現状だし。

「まあ、比較するのはよくないね」

だけど、そんなこと容易く言える訳がない。
私の感情や理論を押し付けても、小緑は絶対に納得しない。

だってそれは本人が一番理解している事なんだから。
悩んでいる子供に外野が『ああだ、こうだ』言っては絶対にいけない気がするし。

一方で小緑は小さく笑った。

「やっぱり茜さんは頼りになります。僕の気持ちをよく分かってくれる。さきねぇとは全然違う」

頼りにされたら困ると言わんばかりに、私は小緑から目を逸らした。
本音なんて一言も言ってないのに。

「だからあんな病弱女、医療ミスで死ねばいいのに」

でも血相変えて、苛立ちの顔で放ったその小緑の言葉だけは共感できない。
本気で言っているなら、私は本気で怒る。

私が気がついた頃には、小緑の胸ぐらを掴んでいた。