「痛っ！」

小緑は体制を崩し、手に持っていたアクセサリが入っていた店の袋を落とした。
同時に袋から紫色のブレスレッドが袋からこぼれる。

どうやら小緑、幼稚園児と思われる小さな男の子に突っ込まれたみたいだ。
その男の子の若いお母さんが小緑に頭を下げる。

「こら！まーくん！すいません、大丈夫ですか？」

「大丈夫です」

小緑は立ち上がると、一瞬だけ男の子を睨んだようにも見えた。
とりあえず落ち着いて・・・・。

「まーくんも謝りなさい！ってこら！まーくん」

まーくんと呼ばれる小さな男の子はまた走っていく。
そして小学生くらいの女の子と、その女の子のお父さんと思われる男性がいる場所で落ち着いた。

お母さんは私達に何度も頭を下げて謝ると、男の子と小学生の女の子とお父さんがいる場所へ向かう。

どうやら女の子とお父さんは家族みたいだ。
小緑とぶつかった男の子はお姉ちゃんの女の子に捕まって説教を受けている。

一方で私は立ち上がる小緑に視線を送る。

「大丈夫？怒ってない？」

小緑から返事はない。
まるで脱け殻みたいだがら、私は再度声を掛ける。

「おーい、小緑さーん？起きてますか？」

それでも小緑から返事がないから、私は小緑の肩を叩いた。
そしてやっと小緑は私の存在に気が付く。

「は、はい！なんですか？」

珍しく動揺しているのだろか？
焦った声と共に、小緑は驚いた表情を見せた。

だから私は今の小緑に対して素直な気持ちを問い掛ける。
「らしくないよ」

・・・・・・・・。

本当にそうだろうか？

『これが本当の小緑の姿なのではないか？』と私は考えさせられた。

まるで嘘の仮面を被り続けた本当の松川樹々の姿のように・・・・。

小緑の目線の先は未だに先程ぶつかってきた男の子。
そしてその隣には先ほどの女の子とお父さんとお母さん。

仲良く話す姿は家族そのものだった。

同時に私の中で樹々の顔が浮かんだ。
『今日はお母さんの見舞いに行く』と樹々は言っていたっけ。

お母さんが出来たのに、そのお母さんである杏子さんは意識不明の重体。

杏子さんが診断されたくも膜下出血といえば、『最悪、死に至るという難病』だとこの前テレビでやっていた。
そういえば最近、人気の俳優がくも膜下出血で亡くなったとニュースで話題になっていたっけ。

新しくお母さんになってくれた人がそんな病気になったら、私だったら耐えられないって言うか・・・・。