「いや、マジ勘弁」

「えー、茜さんは男オンリー?」

「恋愛とか興味がないだけ」

「ってか僕まだ何も言ってないよ。勝手に話を変えないでください」

変えるも何も、小緑が『そうですね』と言ったのではないか。
お姉ちゃんの紗季と違って、小緑はすぐに話の主導権を握ろうとする。

「じゃあ何?ホントに帰るよ」

私は少し苛立ちを見せてみた。
どういう考え方を重視しているのか分からないが、年上の威圧には逆らえないだろう。

でも私の威圧にも全く動じないのが山村小緑という女の子だ。
顔色を悪くするところか、彼女は再び笑った。

「今日一日、僕と遊んでくださいそれがお願いです」

それは日頃の樹々や紗季からよく言われている言葉に似ていた。
でもあまり知らない人とは絡みたくないのが私の本音。

それと疑問が一つ浮かぶ。

「なんで?アンタ友達いないの?」

「いたらこんな所に一人でいたりしません 」

小緑の言葉に私は親近感を抱いた。
私も友達がいたらピアノを始めなかったし。

だけど今は共感したくない。
そもそも私と小緑じゃ経験してきた立場が違うだろうし。

この子、クラスメイトから人気ありそうだし。
私と違って、小緑は友達を作ろうと思えばいくらでも作れるはずだし。

そんな小緑に私は嘘を一つ。
何でもいいから早く帰して欲しいのが今の私の本音。

「親に『知らない人と遊ぶな』って言われているから」

友達すらいなかった私に、父や兄はそんなことを教えてくれた覚えはない。

というより、誰かに声をかけられたら逃げ回るのが昔の私の姿だ。
人見知りは昔から酷かったし、私にそんなことを言う必要なんてなかったのだろう。

まあ、今も逃げようと考えているけど。