「紗季の妹でしょ?」

「せーかい。よくわかりましたね」

その声は嬉しそうだった。
まるで私をからかっているような声。

そんなことより本題を聞きたい。

「で、どうしたの?何か用?」

「うん。茜さんにお願いがありまして」

「何?」

「いや、ちょっと電話では話しづらいので、来てくれないかなって」

意味の分からない小緑の言葉に、私は首を傾げた。

「はい?」

「ゲームセンターに来てください」

今日は予定もないし、することも決まっていない。
どうせまた宮崎紅の曲を聞き返して、また貴重な一日が無駄に終わるだけだ。

だからゲームセンターに行っても構わないが、何となく嫌だった。
親友の妹とは言え、その話しには乗れない。

「めんどくさいんだけど」

私は電話を切ろうとするが、小緑の本性に私は戸惑った。

「いいのですか?断っても。来ないとさきねぇに『男の人とキスした』って言いふらしますよ」

一瞬で私の顔が真っ赤に染まる。
と言うか他人のキスを見たのこの前が初めてだ。

何故だか小緑の言葉が胸に突き刺さる。

でも私はすぐに冷静になって考えてみた。

『それ、私にデメリットないし。嫌な思いするのはアンタじゃん』と結論を出すと、私は心の中で小さなため息を一つ吐く。
小緑自身が恥ずかし思いを味わうだけなのに。

確か小緑はまだ中一のガキんちょ。
まだまだ考えることは幼稚だなと思ったが、次の小緑の言葉に私は頭の中が真っ白になる。

「『大切な妹が知らない相手とキスした』って知ったら、さきねぇ悲しんじゃいますよ。うわー、そんなさきねぇ見たくないな。まだ『男と手を繋いだことのないさきねぇ』は苦しむだろうな」

思わず息を飲んだ。
そしてその想像したくない出来事を恐れた私は、秋だというのに額に汗が滲み出ていた。

「ど、どこのゲーセン?」

震えた声で私が問いかけると、小緑は嬉しそうに答えた。

「ショッピングセンターのゲーセンです。ってかやったぁ!来てくれるんですね!じゃあ僕はゲームセンターにいるから待ってます」

明るく元気な声と共に通話を切られた。
十三歳の少女に手のひらの上でで転がされていると思ったら、ため息しか出てこない。
紗季も毎日同じ思いをしているのだろうか。

でも約束してしまったものは仕方ない。
ベッドから重たい体を起き上がらせた私は、急いで出掛ける支度をする。

「あ、もしもし。ごめん今何してる?」