ルビコン

「樹々さん。僕がついているので、大丈夫です。何かあったら僕が樹々さんを守ります」

ルームミラーに移る瑞季の姿。
助手席に座るあたしの手を、後ろから瑞季は握ってくれた。

まるで今日のジェットコースターに乗った時みたいに。

って言うかそれ、あたしが杏子さんに言った言葉じゃん。
『何かあれば、あたしが瑞季を守ります』って。

やっぱりあたし、口だけの人間だ。
そんな女の子に、誰が助けてほしいんだろう。

泣くことしか出来ないのに。

「あーもう、うるさいな!うるさくて寝れないじゃないの!明日は忙しいはずなのに!」

そんな中、ずっと落ち込んでシロさんの言葉にあたし達は驚いた。
そして気が進まないのか、大音量でシロさんの好きなバンドの音楽をかけ始めた。

そしたら今度は一番後ろの席で寝ていた向日葵が怒りだした。

「うるさい!」

向日葵は杏子さんやシロさんに似ているのか、直ぐに人に手を出すのが向日葵という女の子の生き様だった。
八つ当たりに、兄である瑞季の首を閉め始めた。

「ちょっと、向日葵!苦しいよ!」

苦しむ瑞季の様子を見て、あたしも怒った。

「こら向日葵!瑞季兄ちゃんが嫌がっているでしょ!」

あたしが怒るのが珍しいのか、向日葵は一瞬だけ驚いた表情を見せると標的をシロさんに移した。
『なんで私?』とでも言っているようなシロさんの表情は、何故か面白かった。

そんなシロさんだけど、突然あたしを見て笑う。

「ってか今の向日葵のお姉ちゃんぽかったよ。『樹々お姉ちゃん』やるじゃん!」

樹々お姉ちゃん?

「そう、ですか?」

急に恥ずかしくなった。
何て言うか、不思議な気持ちだった。

今まで味わったことのない不思議な感じ。

そんなことを思っていたら、目の前の向日葵はシロさんから離れる。

「美憂ちゃんお酒臭いし、煙草臭いから嫌だ」

そう言って向日葵はすぐにまた瑞季の元へやって来た。
そしてまた瑞季を苦しめる。

というより、何でそんなに首を閉めたがるのだろう。

一方のシロさんはショックを受けていた。
大好きな人にフラレたように、まるで石のように固まっていた。

その様子がまた面白かった。

笑っていたら不思議と元気が出た。
気がついた頃には、いつものみんなに戻っていた。
遊園地で遊んでいたあの表情に。

あたしもその時と同じ表情をしているのだろうか。