「来週役所で、養子縁組の申請手続きを行いに行きましょう」

その東雲さんの言葉に、あたしは『あたし自身を殴りたい』と思った。

「いや、その」

「どうしたのですか?」

『あたし、明日から一人で生きていきます』なんて馬鹿げた台詞、東雲さんに言えるはずがなかった。
こんなにもあたしの事を思ってくれている人が隣にいる。

こんなに迷惑をかけているというのに、この人はあたしと離れるどころか、一緒に暮らそうと言ってくれている。

だから『どうしていつも自分の事しか考えられないんだろう』って、おもいっきり自分自身を殴ってやりたいと思った。

「杏子さんとのお話、何を話しましたか?」

「えっと、『家族にならないか』って言われました」

『ふざけんな』って自分に言いたい。
結局あたしは自分の都合しか考えていない。

この一家全員に気を使われているにも関わらず、あたしはまだ自分の意思を貫こうとしていた。

くだらないクソみたいなプライドのためだけに。
誰一人救えない、馬鹿みたいな考えを押し付けようとしてまで。

「そうですか。僕は賛成ですよ。晩ご飯、沢山作る方が楽しいですし。それに最近は瑞季くんも手伝ってくれます。知ってますか?瑞季くんは将来和食の料理人になって、自分の店を作りたいそうです。その時はお父さんも手伝ってほしいって言われました」

そろそろ高校卒業して大人になろうとしているだから、いい加減気付けよ。
じゃないとあたしら本当の一人ぼっちだ。

「そう言えば一番最初に樹々ちゃんを招待したいって言ってましたね。本当に瑞季くんは樹々ちゃんの事が大好きみたいですね」

一人ぼっちは嫌だ。
絶対に嫌だ。

一人ぼっちになるくらいなら、死んだ方がマシだ。

「えっ樹々ちゃん?どうしましたか?」

もう一人で泣きたくない。
一人でご飯食べたくない。

一人で笑顔の練習なんてしたくない。
一人で生きたくない。

「樹々ちゃん、本当に杏子さんの言う通りの泣き虫なお姉ちゃんですね」

・・・・・・・・・。

ああ、これだ。

杏子さんが一番心配していた事。

あたしが一人ぼっちだったから、あたしに声をかけたんだ。
一人では生きれないか弱い女の子だから、あたしを家族に誘ったんだ。

経歴なんて関係ない。
血の繋がりなんて関係ない。

本当に馬鹿だ。
なんでこんなこと分からなかったんだろう。