検査の結果、杏子さんは『くも膜下出血』と診断された。

聞いたことのない言葉だが、重症だということはあたにしも分かった。
すぐに手術も行われた。

ここは遊園地近くの大学病院。
あたしはここまで救急車でここまで来たらしい。

らしいと言うのは、本当に覚えていないから。
本当に何も覚えていない。

今日の記憶さえ曖昧だ。

薄暗い病院の廊下にただ一人。

音一つ聞こえないこの場所で、あたしは赤く光る使用中の文字を見て絶望していた。
これから『母親になろうとしていた人なのに、どうしてこんなことになってしまったんだ』って。

やがて血相を変えて泣き叫ぶシロさんと、見たことのない険しい表情の東雲さん。
そして何が起きたかわからない表情を浮かべた瑞季と向日葵がやって来た。

シロさんは付いて早々に訴える。

「ちょっと姉さん!どういうことよ!説明してよ!なんで私の許可なく倒れているのよ!」

「美憂さん、落ち着いてください!」

暴れまわるシロさんを、東雲さんは看護婦と一緒に止めている。
その姿を見た瑞季と向日葵はようやく現状を理解したのか、大声で泣き出した。

その一家の姿を見て、あたしも涙を流していた。
同時に『どうして泣いているのだろう』って思った。

だって、さっきまであんなに笑っていたのに。
あんなに楽しかったのに。

『家族になろう』って、暖かい言葉を貰ったのに。

その代償?

・・・・・・・。

だったら笑うんじゃなかった。
楽しむんじゃなかった。

一生感情の抜き取られたぬいぐるみみたいに、誰とも関わることなく大人しくしておけばよかった。

こんな所、来ない方がよかった。そ

れならこんな心の中から滲み出す悲しみを味わなくて済んだのに。

何もかも手遅れだ・・・・・。