「養子縁組って知っている？と言うか、今の私と瑞季のような関係。血は繋がっていないけど、本当の家族のようになれる仕組みなの」

言葉の意味は理解していた。

だけど『理解したらしたで話が進んでく一方』だと思ったあたしは、訳のわからないフリをした。

「えっと、よくわからないんですけど」

案の定杏子さんは表情を強張らせた。
まるでお母さんのような、『いい加減にしろ』とでも聞こえてきそうな表情に、あたしは目を逸らした。

「あなたねぇ、都合が悪くなったら惚ける癖、いい加減に直しなさいよ。私が本気で話しているのだから。あなたも本気になりなさい」

「ごめんなさい」

萎縮したあたしはただ謝るしか選択肢がなかった。
本当のお母さんのように、娘の考えていることは何もかもお見通しのように。

そういえば今日、何度あたしの思考を見抜かれた事だろうか。

「今日の本当の目的は、あなたを家族に受け入れるため。そのために美憂にも協力してもらっているの。わざわざ一番忙しい日曜日に店を閉めてまで手伝ってくれているの」

その言葉にあたしは疑問を抱いた。

「でも団体客が来なくなったって。お昼の席でも話してましたよね？」

「全部嘘よ。団体席もキャンセルも。私が考えた台本どうりの嘘。まぁ、瑞季の事は想定外だったけどね。それに考えてみなさいよ。あのダサい店に団体客が来ると思ったの？」

全部演技で嘘だった。
そう納得するのに時間がかかったが、そんなことはなんだかどうでも良くなってしまった。

「あはは杏子さん。もうちょっと優しく包みましょうよ。そんなことを思っていても、絶対にシロさんに言っちゃダメですよ」

そう言えばこの話から逃げれるとあたしは感じた。
苦笑いを作って話を逸らそうと思ったから。

みんなの演技なんてどうでもいいと思った。

だけど杏子さんの表情はまた鬼のように真剣な顔付きに変わってしまった。

「それくらいの気持ちで美憂も本気で手伝ってくれているの。本気で今日一日、樹々ちゃんをみんなで受け入れようとしていたのよ。もちろん瑞季も向日葵も協力してもらっている」

またあたしは目を逸らした。
だって、また理解できなかったから。

「でもそんなことしたら・・・・迷惑かかっちゃいますよ」

杏子さんは大きなため息を吐いた。
『いい加減、いつになったら理解してくれるんだ』と言っているような、母親のような呆れた表情であたしを見ていた。

「あーもう、めんどくさい子ね。『東雲さんと一緒に樹々ちゃんと桔梗くんの晩ご飯を作るか』って考える時間。それにあなたに電話する時間が無駄でめんどくさいの！それだったら毎日何も考えずに一緒にご飯を食べた方が幸せに決まっているでしょ？」

やめてほしい。
そう言いたかったが言葉が出てこなかった。

同時にその杏子さんの押し潰されそうな辛そうな表情を見たら、もう何て答えたらいいのかわからなかった。

杏子さんは続ける。
らしくない本音を呟く。