「えっと、『瑞季が辛そうだったから、慰めてほしい』って思ったからじゃないですか?」

あたしは思っていた事を話した。
そしたら杏子さんは今日一番の笑顔を見せると大声で笑いだした。

「あはは!相変わらず馬鹿ねぇ。だったら帰った後でもいいじゃない。今なんで遊ぶ時間を削ってまで、東雲さんをあの人達に付かせたと思っているの?」

もう何が何だか分からなかった。
分からないからまた周囲の音は聞こえなくなってしまった。

目の前には笑顔で話す杏子さんしか見えない。
それ以外の背景はただ真っ暗。

まるで杏子さんが一筋の光のように少しだけ暖かく感じた。

「あなた自身に大切な話があるからに決まっているじゃない。瑞季の話はただの前振り。本番はこれからなのに」

そう言って杏子さんはまた笑みを見せた。
一方のあたしは話に間を入れる。

「えっと、待ってください!その話、心の準備とか必要ですか?」

「うーんそうね。今の樹々ちゃんなら必要かもね。まあでも要らないと思うけど」

息を飲んだ。
そして、嫌な予感しかしなかった。

今までの晩ご飯代、風邪を引いた時の看病代。

他にもお世話になっている感謝代。
あとこのアイスコーヒー代。

『いつになったら払ってくれるの?』って。
まるで杏子さんが角を生やした鬼のようにも見えた気がする。

・・・・・・。