ああ、だからか。
だからあたしに話したんだ。

『瑞季の事をこれからもよろしく』と、杏子さんは言いたかったんだろう。

瑞季の精神が不安定だと今日初めて気が付いた。
学校で何か起きているのかもしれない。

もしかしたら嫌な思いをしているのかもしれない。

だから『産みの親のいない似た者同士、これからも瑞季を支えてあげて』って意味で杏子さんはあたしに話したんだと気が付いた。

そう勝手に理解したあたしは杏子さんに笑顔を見せた。
『あたしが落ち込んでいて、どうするんだ』って自分に渇を入れる。

「そうですね。瑞季とは少し年が離れていますけど、何かあればあたしもしっかり瑞季を守ります!」

あたしの自信気な言葉に、何故か杏子さんは首を傾げた。

「そ、そう?そう言ってくれると助かるけどね」

曖昧な杏子さんの言葉に、あたしも首を傾げた。

そして話がズレているということに気が付いた。

「えっと、あれ?何か違いました?」

「何が?」

その時、今まで聞こえていなかった音が全て聞こえた。
噴水の近くでパレードが行われていたということに、あたしはようやく気が付いた。

「えっと、あっ、いや。何でもないです」

急に恥ずかしくなった。

これじゃないなら、一体何のためにあたしにこんなことを話したのだろう。
意味がわからない。

「もう何よ?もしかして、勝手に想像して勝手に納得して、勝手に頑張ろうとしていた?」

見事に当てられたあたしは更に恥ずかしくなった。
何て言うか、いっそうのこと死にたい気分。

「『人の話は最後まで聞きましょう』って小学生の頃に習わなかった?それに私はまだ本題を話していないわよ」

「えっ?」

杏子さんの言葉にあたしは吐きそうになった。

これが本題じゃないなら、『杏子さんは今から何を話そうとしているんだ?』って思ったから。

「どうしてあなたをこんな場所に呼んだんだと思う?」

その質問の答えは分からないけど、スケールの違う話がやって来るということだけは何となく分かった。

あたしは曖昧に答える。