着いた場所は店外に無数の丸いテーブルと椅子が並ぶ休憩所のような場所だった。
陽も暮れたこともあり、他にお客さんはいない。

近くには七色に光る噴水があってとても綺麗な場所だと思った。

『アイスコーヒーでいい？』その言葉にあたしは頷いた。
その後、屋台のような店からアイスコーヒーを受けとる。

そしてあたし達は近くの椅子に座った。
ずっと動いているから、少し息を吐くあたし。

でも座って早々杏子さんは、一息置く隙なく何の前振りもなく本題に入った。
意味のわからない杏子さんの一言。

「私ね、実は一人しか子供産んでないの」

奢って貰ったコーヒーをストローですする最中に聞いた杏子さんの言葉。
あたしは聞く準備していなかったため、その言葉の意味はよくわからなかった。

「・・・・は？」

そしてその言葉を理解した時にはまるで時が止まったようだった。
噴水の水が弾ける音や歩く賑やかな人の声も、あたしの耳には届いていなかった。

「えっと、どういう事ですか？」

「言葉通りよ。私の血が流れているのは瑞季か向日葵のどちらかだけ。さて、どっちだと思う」

『何の冗談ですか？』そう言おうと思ったが、杏子さんの真剣な眼差しを見てあたしは止めた。

そんな顔をするってことは、多分嘘じゃない。

・・・・・。

「わかりません」

「あの子達に気を使ってくれているの？気にしなくていいわよ」

そうじゃない。
なんでそんな真剣な表情で他人のあたしにそんな事を知らせてくるのだろう。

瑞季か向日葵どちらか以前の問題で、『なんで今、話し掛けて来たんだろう』って。
『なんで今という時間を選んだろう』って。

だからそんなことを考えていたら、どちらも選べなかった。
頭の中も真っ白になる。

杏子さんはアイスコーヒーを一気にすすった。
そしてうつ向くあたしの姿を見て、『もう答える気は無いのだろう』と感じた杏子さんは小さな息を吐いた。

同時に聞きたくない答えも教えてくれる。