ルビコン

次は何に乗ろうかな。
そんなことを考えていたらあっという間に時間が過ぎた。

初めて遊園地。
何もかも初めてのあたしは何をやっても楽しかった。

怖いと思っていたジェットコースターも、いつの間にか克服していた。
瑞季と常に一緒に行動して『もう一回乗ろ』って、嫌がる瑞季に何度も声をかけていたっけ。

そして『あと一時間経ったら帰ろう』と、さの杏子さんの一言で最後のアトラクションを探した。

夕日の時間は早まり、午後六時になろうとした時には茜色の空から漆黒の空に変わろうとしていた。

同時にその漆黒の空を照らすように、七色のイルミネーションが園内を飾る。
その綺麗な光景に、あたしは『まだまだ遊んでいたい』とそんなことを考えていた。

そんな中、まるで子供のような無邪気な笑顔でシロさんは提案する。

「じゃあ観覧車に乗りたい人!」

この時間から見る観覧車の夜景は、とても綺麗だとパンフレッドにも書かれている。
この都会の街を照す光や、上から見る光輝く遊園地はあたしも楽しみだと思っていた。

だからあたしもシロさんの後を追いかけようとしたけど、突然杏子さんに止められた。

「ああ、樹々ちゃん。ちょっと話があるのだけど、ちょっといいかな?」

話?
こんな時に?

「どうしたのですか?」

「ん?まぁ、ちょっとしたお話」

何だろうと考えたが、全く想像できなかった。
きっと楽しいが勝って、他の事なんて考えたくなかったのだろう。

・・・・・・・。

だからこの家族旅行の本質に、あたしは全く気が付かなかった。
これからやって来る若槻家の本題を、あたしはまだ知らない。

「東雲さん、ちょっとあの子達見ていてくれる?美憂もお酒飲んでちょっとフラついているし」

「わかりました」

杏子さんの言葉に東雲さんはいつも通りの笑顔で頷く。
そして観覧車まで一直線に歩く彼女らの後を追った。

一方の杏子さんは彼女らとは反対側の道を歩く。
あたしはその杏子さんの背中を追いかける。