急ブレーキと共に、あたしは生きているということを確認する。

楽しかったのは事実だが、翌々考えたら『高い所が怖い』と思う自分を噛み殺していただけだった。

もう乗りたくないかも・・・・。

「どうだった?瑞季」

車体が完全に止まるのを確認したあたしは、隣に座る瑞季に声をかけた。

だけどまたいつもと様子が違うことに、あたしは驚いた。

「って瑞季!?なんで泣いているの?そんなに恐かった?」

瑞季の目から大粒の涙が流れていた。

って仕方ないよね。
終始ずっと手が震えていたし。

祈るように『早く終われ』と祈っていた彼の表情は今も忘れることはないし。

だけど瑞季は慌てて服の袖で涙を拭き取ると、少しだけ笑ったように見えた。

と言うか笑っている。

「怖く、なかったです」

「えっ?」

聞き間違いかと思った。
泣いていた表情と裏腹に、何処か晴れたような彼の表情。

まるで曇り空から現れた、この大地を照らす太陽のような彼の可愛らしい笑顔。

気を抜くと、今度はあたしが泣きそうだった。

瑞季は続ける。

「なんか樹々さんがずっと手を握ってくれたから、全然怖くなかったです」

そう言って、もう一度彼は笑った。
何度もあたしは瞬きをしても彼の笑顔は変わることはなかった。

見間違いでもないようだ。

「そ、そうかな?」

「はい。樹々さんのおかげです」

そう言われてあたしは恥ずかしくなった。
走行中に『あたしらしくないことを言ったんだろう』って思い返す。

そして思い返すほど、あたしの顔は真っ赤に染め上がっていく。
でも瑞季が笑ってくれて、それでよかった。

恥ずかしさを上書きするように、あたしは心の底から嬉しかった。

こんなあたしでも、『人一人笑顔にすることが出来るんだ』って知ったから。

だからあたしは提案する。
瑞季に笑顔を見せる。

「じゃあもっかい乗ろうよ!本当はあたしも怖かったけど、瑞季と一緒なら頑張れるし!」

「いや、もう勘弁してください!もう本当に、本当に・・・・」

また泣きそうな彼を見て、何だかからかいたくなった。

「じゃあまたあたしが瑞季の手を握ってあげる。そうすれば怖くないでしょ?」

恥ずかしそうな瑞季と、ただただ楽しいと思うあたしを見た杏子さんやシロさんは笑っていた。

そしてそのあたしの笑顔を見た瑞季も、ジェットコースターを降りた後は笑っていた。