「なんの花?」

「よくわからない。綺麗だから持ってきた」

「花屋さんなのに?」

「俺は継がないし、花なんかに興味ないよ!」

そうは言っても、葵が花のことに触れると目の色が変わる。
今だって声が生き生きとしているのは明らかだった。

それに決め付けはこれ。

「でも葵から花のようないい匂いする。なんの匂い?」

「たぶん勿忘草だな。俺あの花めっちゃ好きなんだ!色も綺麗だし」

「へぇ。詳しいんたね」

「まあ一応。花屋だし。これくらい常識だって!常識」

『さっきの言葉はどこに言った』と、私はため息を吐いた。

一方の葵は持ってきた白い花をウサギに差し出す。

『食べないだろう』と思っていた花を見たウサギは、小さな鼻を動かすと食べ始めた。

何の躊躇いもなく、まるでご馳走のように白い花を食べ始める。

「おっ!食べたよ茜」

正直言って驚いた。
まさか食べるなんて思っていなかった。

「そうだね」

私はウサギを見てそう言ったんではなく、葵の表情を見てそう言った。
とても嬉しそうな無邪気なガキの笑顔。

よほど嬉しかったのだろうか。

ゆっくり味わうように花を食べるウサギ。

そんなウサギを見て、『食べるのに時間がかかるだろう』と感じた葵は白い花をウサギの目の前に置いた。
そして『今日はもう帰ろう』と、再び小屋に南京錠をかけてこの場を後にする。

『明日には元気になってるかな?』なんて話ながら、私は葵と一緒に帰った。

その日の出来事は、それで終わり・・・・・。