「そうかな?でも楽しいよ。ねぇ、向日葵ちゃん?」

シロさんの言葉に向日葵の表情は輝いているように見えた。

よく遊園地に行っているのか、向日葵からは恐怖という言葉は一切感じない。
まるで『早く乗らせろ』と、力強い目力で訴えていた。

そんな向日葵を見て、あたしはまだ抵抗を続ける。

「あたしはきっと楽しくないです」
そのあたしの言葉に、杏子さんはため息を吐いた。

「ノリが悪い子ね。まあいいわ。美憂、樹々ちゃんを連れていくわよ。向日葵は瑞季を連れてきて」

「がってん!」

呆れた表情を浮かべて先頭を歩く杏子さんの背中を見ていたら、シロさんに背後から抱きつかれた。

微かに香るシロさん愛用の香水の香りと、その香水の香りを書き消すような煙草とお酒の息。
まるで居酒屋帰りの酔っぱらいに絡まれた気分だった。

逃げようと試みるも、シロさんは普段から飲食経営の力仕事をしているせいで、全く効果がなかった。
だからあたしは抵抗するのを諦める。

ふとあたしは後ろを振り返った。

あたしと同じように、無理矢理妹の向日葵に腕を掴まれて歩く瑞季の姿。

そしてその微笑ましい我が子の姿を、父親の東雲さんは笑みを浮かべて見ていた。
小さな背中をお父さんは見守る。
そんな瑞季を見て、正直言ってあたしは羨ましいと思った。

瑞季の立場から見たら両親がいて、可愛らしい妹もいる。
おまけにこんな楽しい場所に連れてってもらえるのだ。

家族と一緒に過ごす時間が凄く羨ましいし、凄く幸せそうだ。

でもあたしの場合は、もうとっくの昔の出来事のように『家族の愛』を忘れ去ろうとしていた。

あたしのお父さんはすでに死刑執行されて、お母さんは自殺。

いつの間にか家族の愛情を失って育ったあたしには、ただただ羨ましすぎる光景だった。

同時に何処か心の底から叫びたくなるような、何かに押し潰されそうなあの頃の悲しさを思い出していた。

もう思い出す必要なんてないのに・・・・・。

こんな風に、あたしも家族で旅行とかしたかったのに・・・・。