「これにニット被せてもよくない?あとスニーカーと。なんか女子大生ぽいよね?」

そう言ってシロさんは無理矢理あたしに黒のニット帽を被せてきた。
そして滅茶苦茶姉妹はあたしをジロジロと眺めて笑った。

「最初はこんなものよね。いきなり攻めてもいいんだけど、なんせ樹々ちゃんが慣れてないならね。これにしようかしら。美憂もいいと思うわよね?」

「うん、私はいいと思うよ」

二人の会話に、あたしは思わず逃げてしまいそうになった。

まさか買うつもりなのだろうか。
あたし、お金なんてないのに。

こっそりあたしはジージャンの裏に着いている値札を確認。
そしてあたしは声にならない叫びをあげる。

同時に『これだけあれば、我が家の食費は何日浮くだろうか』と一瞬そんなことを考えてしまったあたしは、すぐに否定した。

「あたし、お金ないですよ」
お金がないと何も出来ないし、お金がなくなったら生きていけない。
生きるために意味のない買い物なんてしても、時間とお金の無駄。

それにあたしが稼いだお金じゃない。
欲しい訳じゃないし、この服を無理に買う理由なんてどこにもない。

だけどそんなあたしの『常識』を覆すのがこの無茶苦茶姉妹だった。
二人は何故かあたしを見て笑う。

「樹々ちゃん誕生日いつ?」

意味のわからない杏子さんの質問にあたしは首をかしげた。
そして答える。

「えっと、一月一日の元旦です」

「へぇ、すごい日に生まれたんだね」

杏子さんが何を言いたいのかわからない。
ただ笑みを浮かべる杏子さんの姿が不気味に見えた。

ますます意味がわからない。

そして、杏子さんは続けた。

『本当にこの人は頭がおかしいんじゃないかな?』って、あたしは何度も思わされる。

「じゃあこれ、『誕生日プレゼント』だって言ったら受け取ってくれる?」

ホントにホントに、この人はなんであたしに手を差し出し出してくれるのだろう。

「誕生日プレゼントって、まだ四ヶ月後ですよ。あたしの誕生日」

まだ九月の末。
『いつの話をしているのだ?』と、あたしは呆れた。

でも杏子さんはいつものように言い返してくる。