『どうして葵をからかいたくなるか』って言われたら、葵は悪ガキのくせに優しい心も持っているから。

人を困らすことが趣味のような奴だけど、困っている人を見つけたら放っておけないというか。

今朝の上級生との喧嘩も、優しさの心から生まれた行動だろう。
正義感とは違う、ただの優しさ。

そんな葵は呆れた親友だと、今の私はため息を一つ吐く。

優しい心はいいけど、動物一匹にそこまで労力を使いたくないのが今の私の本音。
何より早く帰って寝たい。

だから私は葵の質問を冷たく返す。

「あるわけない」

「そんなこと言うなよ。でもさ、マジでヤバくない?『何も食ってない』ってなるとさ」

『何を言っても葵は聞いてくれない』と判断した私は考える仕草を見せる。
だけど本当に興味がなかったため、何も案を思い付かずに適当に言葉を投げつけた。

今テキトーに浮かんだ、私の言葉。

「花でもあげてみたら?その辺の」

「わかった!なんか探してくる」

葵は必死だった。
ウサギのために何か出来ることがないか、私の言葉を聞いて、小屋から全力で走って離れていく。

その気持ちが私には理解できなかった。
出来ないから私は呆れた顔を浮かべながら呟く。

「まじかよ」

取り残された私は小さく呟くと、近くにある古いベンチに腰掛けた。
同時に真夏の青い空を眺める。

ここは本当に殺風景な場所だと来る度にいつも思わされる。

基本的に立ち入り区域の裏庭はウサギ小屋と古びたベンチ。
そして手入れのされていない雑草が生い茂る廃墟のような場所だ。

だけど『秘密基地』とか『一息つく場所』と思ったら最適な場所かもしれない。

暫く経っても葵は帰ってこない。

だから『このまま帰ってやろうか』と思ったりもしたが、直後に葵が戻ってくる。

その姿を見た私は舌打ち。

「おかえり」

心にもない言葉を投げると、葵は笑みを浮かべる。
そして早速ウサギの元へ向かった。

彼の手には小さな白い花びらが無数に咲く見たことのある綺麗な花。