「はいはーい、とりあえず試しに着てみようよ。茜ちゃんや紗季ちゃんを驚かせようよ。ついでに橙磨くんをおとしちゃえ!」

その友達の名前を聞いたあたしはゾッとした。

桑原茜(クワハラ アカネ)は今、過去と向き合おうとしている。
この前も茜をいじめていた柴田愛藍(シバタ アラン)という人と向き合ったらしい。

茜はピアノも上手だし、本当にすごいあたしの親友だ。
あたしには真似できない。

山村紗季(ヤマムラ サキ)は持病と戦いながら毎日生きているし、将来の夢は保育士と言う夢まで持っている。
毎日見せる優しい笑顔に、あたしは何度も助けられたっけ。

紗季と出会わなかったら、ずっとあたしは暗いままだったかも。

川島橙磨(カワシマ トウマ)さんは妹の不幸な出来事がきっかけで、自分の人生が狂ってしまった。
妹は一年以上も眠り続ける不安定な状態で、自身は留年。

それでも彼は頑張って生きている。
この前の祭りも彼は頑張ってたこ焼きを焼いていた。

その力強い背中に、『あたしも頑張ろう』って勇気を貰った。

あたしは・・・・・・何もない。
ただ何も考えずに生きて運任せ。

常に誰かに助けられて、誰かが手を伸ばしてくれないとあたしは立ち上がることすら出来ない。
きっと無人島生活で『一番最初に諦めるタイプの人間』なんだろうとあたしは思った。

だって何も出来ないし・・・・。

そんなことを考えながら、あたしは試着室で二人が持ってきた服に着替える。

見間違えたような自分に、少しだけ吐き気もする。

「あっ、似合ってるじゃん!どう?姉さん」

「うん、似合ってるわね。見間違えたわ。やるじゃん樹々ちゃん」

例え何を着飾っても、あたしはあたし。
何をやっても、努力したとしても、『ダメなあたし』だということは何一つ変わることない。

初めて着るジーンズジャンバーに、その下はプリントされたアルファベットが並ぶ白のパーカー。
それと黒のフレアスカート。

らしくない・・・・。

それらを纏う見間違えたような自分を見たあたしは、ただ気分が悪いだけ。

だってこんなのあたしらしくないし。
多分、あたしをいじめていた人達に見られたら、笑われるだけだし。

それに『自分が変わらないから、どれだけ立派な物を身に付けても意味がない。
それが剥がれたら何も意味がない』ってあたしはそんなことを思ってしまうし。

結局、あたし自身が変わってない。