「ちょっとそこの迷子の子。何隠れているのよ」

別に隠れるつもりはない。
緊張してどうしていいか分からなかっただけだ。

こんな高そうな店、あたしには一生縁がないと思っていたから。

だからあたしは少し苦笑いを見せて言葉を返す。

「ま、迷子ですか?」

「山から降りてきた熊のような表情していたからよ。何考えていたの?人を見て襲おうと思ってたの?」

『この人はあたしを何だと思っているんだ』と、背中を見せた杏子さんを睨んだ。
いっそうのこと襲ってやろうか。

その杏子さんに、シロさんは笑顔を見せる。

「あっ姉さんこれどう?似合うんじゃない?」

「へぇ、アンタにしては攻めるわね。いいんじゃないの?」

「でしょ?絶対に樹々ちゃんなら似合うよね?」

シロさんの言葉にあたしは違和感を覚えた。
『なんであたしの名前が出てくるの?』って。

あたしは店内を見渡す。
そして店内のお客さんは、あたしと年齢が近そうな女の子しか居ないと言うことに気が付いた。

みんな高校生か大学生くらいだろうか。
彼女らを見ていて、まだちょっと頭が痛む。

同時に嫌な予感がした。
またこの『滅茶苦茶姉妹』はロクでもないことを考えていると危険を感じたから。

そしてその嫌な予感は形となって現れる・・・・。

「さあ樹々ちゃん。あたし達が選んだ服、ちょっと試着してみて」

シロさんと杏子さんの両手いっぱいの洋服にあたしは再び肩を落とした。
もう早く帰りたい・・・・・。

「全部、あたしのですか?」

「当たり前でしょ?樹々ちゃんいつ見てもその服装だもん。高校生だったら新しい服くらい買わないと。じゃなきゃ男にモテないわよ」

確かにあたしは外出する時は、この服装しか持っていない。
夏場はブカブカの白のTシャツに、中学の時に買ったジーパン。

あたしの一張羅だ。
他には部屋着と冬服のコートに学校の制服だけ。

新しい服が欲しいのは山々だが、買うお金がないのが現状だ。
アルバイトをしたいのだが、『樹々がそんなことをする必要がない』とお姉ちゃんから毎月二万円のお小遣いを貰っている。

物欲はあるが、あまりお姉ちゃんのお金で買いたくないと思っているから、貰った小遣いはほとんど貯金している。
そしていつかそのお金をお姉ちゃんに返そうとあたしは思っている。

まあ、先月は夏祭りで使い過ぎたけどね。
もちろん全額を使い切ったわけじゃないけど、気が付けば財布は空っぽだったし。

携帯の充電器すら買えなかったし・・・・。

そんなことを考えていたら、突然シロさんに背中を押された。