出掛ける仕度が終わったあたしは、忘れ物がないか確認すると家を出る。
時間は午前七時半。

でも集合時間は八時だ。
『ちょっと早すぎかな?』って思ったあたしは、もう一つの我が家を目指して歩き出す。

少し脅えながら下を向いて歩いて行く。

杏子さんの住むマンションはあたしの家から徒歩五分の近い距離。
高そうなマンションで、どの部屋もかなり凄く広い。

何て言うか、お金持ちの人が住むようなマンションだ。
何だか羨ましい。

そのマンションに早めに着いたが、すでに準備は始まっていた。
大きなマンションの玄関口付近には、白い大きな車が一台止まっている。

気のせいかもしれないが、どこかで見た記憶のある車だ。

その車から女の子と間違える顔付きの瑞季(ミズキ)が降りてくる。
多分、車に荷物を詰め込んでいたのだろう。

眠たそうに、瑞季は目を擦る。

「あっ、樹々さんおはようごさいます」

「おはよう。瑞季だけ?と言うかこの車って確か」

やっぱりこの車、どこかで見覚えがある。
白の大きな車に、女性が運転しているとは思えない煙草の臭いが酷い車内・・・。

間違いない。
彼女の車だ。

「あれ?樹々ちゃんじゃん。どうしたの?」

マンションの玄関口から綺麗な金髪を揺らす車の持ち主が現れた。
彼女も瑞季同様に、眠たそうな表情だ。

彼女はあたしの恩人で、シロさんこと城崎美憂(シロサキ ミユウ)さん。
あたしがよく行っているカフェの店長さんだ。

「シロさんこそ。お店はどうしたのですか?」

「どうしたもないよ。脅迫だよ、脅迫」

「脅迫?」

聞き慣れない言葉にあたしは首を傾げた。
一方のシロさんは真っ青な表情で続ける。

「『今日お店を営業したら店を爆弾でふっとばす』ってさ」

ぶっ飛ばす?

・・・・・はい?

「いやいや、立派な犯罪ですよ!誰ですか犯人は?警察言いましょうよ!」

あたしがそう言うと、シロさんはあたしの肌が触れそうな距離まで近づいていた。
そしてあたしの耳元でシロさんは呟くように言った。

近くであくびを見せる瑞季にも聞こえないように・・・・。

「一人しかいないでしょ?私の周りで『性悪人間』は」

性悪人間、ねぇ・・・・。
あたしからしたらいっぱいいるけど。

だけどそのシロさんの小声は、シロさんが言う『性悪な人間』に聞こえてしまったようだ。

「あら、誰が性悪ですって?」

真っ青な表情のシロさんが振り返った先には、シロさんのお姉さんでもある杏子さんが立っていた。
ちょっと怒っている。

でも直後、杏子さんはあたしを見て笑顔を見せた。