「シロさんに脅迫されたんでしょ?『樹々をシロさんのカフェに連れてこい』って。何を脅迫されたか知らないけど」

「え?」

何がなんだか分からない表情を見せる茜。
でもあたしの言葉を理解したのか、茜は小さく頷いた。

「それ、あたしがシロさんにお願いしたの。茜からあたしに声を掛けてくるように」

「えっ?えっ?なんで?」

茜の表情がさらに深刻になる。
これは見ていて面白いかも。

「だって茜、あたしの事無視してくるし。あたし、滅茶苦茶不安だったんだよ。『あたしの事知っちゃったから、あたしの事が嫌いになっちゃったんじゃないか?』って」

あたしは休憩時間にシロさんに連絡を入れた。

内容は、『茜があたしの無視して来るから脅迫してほしい。
茜からあたしに声をかける機会を作ってほしい』ってシロさんにお願いした。

それで結果がこれ。
シロさんもあまりいい性格じゃないから、きっとこの状況を楽しんでいたのだろう。

茜の表情が真っ青になるほどの無茶な脅迫をしたのだろう。

例えば、『自分をいじめた昔の親友に告白する』とか?

もしそれが本当だったら、シロさんは人間じゃない・・・・・。

あたしは真剣な表情に変わると続ける。
「だからさ、何で無視するのさ。あたしスゴい不安だったんだよ」

「ごめん、なさい」

「いや、謝らなくていいから。どうして?」

茜は『申し訳ない事をしていた』と自覚があるのか、あたしと目を合わせようとしない。
ずっと下を見て指を動かしている。

でもちゃんと言葉は返してくれる。

「だ、だって私・・・・・。『樹々に嫌われた』と思ったから。もう私のことを、『嫌い』にならないでほしいし」

その茜の言葉に、あたしの心の不安が一気に消えていく。
黒い心の霧が一気に晴れていくような気がした。

代わりにあたしの中で怒りが生まれる。

「嫌いになるわけないじゃん!このバカ!なんで茜のことを嫌いにならないといけないのさ!アンタ本当に脳みそついてんの?この大バカ野郎!」

茜はあたしの言葉に驚いたのか、大きな声で言い返す。

「バカってなにさ!私も必死に考えてたのに」

「そんなくだらないことのために必死になって考えていたの?バカな茜らしいね」

「またバカって言った!」

「そうですよーだ。茜さんはとんでもない大バカですよー」

茜をいじるのがこんなに楽しいと思わなかった。
今にも泣きそうな表情で茜は紗季に助けを求める。

「もう紗季!樹々を何とかして」

紗季は笑っていた。
あたしと同じで意地悪な表情。

どうやら紗季はあたしの味方みたいだ。
それに橙磨さんもあたし達と同じ表情。

みんなで茜をからかうと何だか凄く楽しい。