裏庭に繋がる道をしばらく歩いていたら、小さな小屋と古びたベンチしかない殺風景な場所に着いた。
小屋の中にいるのは、一匹の茶色いウサギ。

「茜、鍵」

葵の短い言葉に、私は無言で握り締めていた小屋の鍵を使って小屋の閉める南京錠を開けた。

ちなみにこの鍵は『図工室』という、物置同然の教室から持ち出してきた。
ウサギの餌や、他に飼育している動物の餌も、その図工室に置いてある。

ウサギはじっと動かず、私達の行動を伺うように大人しかった。
このウサギの名前は、特に決まってない。

「最近元気ないよな。ずっと動かないし。変なもの食わした?」

葵の言葉に、私は無言で首を傾げるだけ。

「ってか餌減ってないし、このままでよくない?」

葵の視線の先は、ウサギの餌であるペレッドと呼ばれるウサギ専用の餌。
そこに彼は疑問を感じたのだろう。
私達を飼育委員の仕事は、学校が用意したペレッドを補充するのが仕事だ。

でもペレッドは昨日から減ってないみたいで満タン。
これ以上あげると、容器から溢れ出しそうだ。

だから私は言葉を返す。

「葵がいいって言うならいいかも」

「ホントお前ってテキトーだな」

テキトーというより、ウサギや飼育委員の仕事に興味がないだけだ。
自分以外には興味ない。

当番が私だけならきっと、何も餌を与えすに帰っているだろう。
多分小屋にすら寄ってない。

それが桑原茜という女の子の本音だ。
でも減っていない以上、今は何もすることはない。

「減ってないって、昨日からなにも食べてないってこと?」

私は一応飼育委員として、ウサギを思う嘘の気持ちを見せた。
内心はどうでもいいと思っているけど。

「それ大丈夫なのか?なんか食わせた方がいいのかもしれないし。茜、なんか持ってないの?」

私の嘘を信用しているのか、葵は真面目な表情だった。
何か食べさせる物がないか、葵は真剣に考えるような仕草を見せている。

そう言えば葵、嘘に引っ掛かりやすい奴だっけ。
『どんな嘘でも何でも信じてしまう奴だった』と、私は思い出す。

昔はよく私と愛藍でテキトーな嘘を考えて、葵を困らせるのが好きだった。
無いことを信じさせて、『嘘だよ』とネタばらしをして悔しがる葵の表情が好きだった。

怒っている葵の反応も私は大好きだった。