茜を追い続けて気が付いた頃には、まだ誰も登校していない教室にいた。
そして逃げ場を失った茜は、自分の席で鞄を抱えるようにうずくまった。

そのままホームルームが始まるまで茜は顔を上げなかった。

一方のあたしは諦めない。

『どうしたの?』とか、『昨日はありがとう』って彼女に問いかけるも、当たり前のように返事は返ってこない。

まるで石に話し掛けているみたいな気分だった。
茜は一言話してくれない。

そのあたしの無様な様子を登校して来た橙磨さんと紗季は笑って見ていた。

あたしは直ぐに茜の元から紗季の元へ駆け寄る。
紗季に助けを求める。

「紗季。茜が変」

「どうしたんだろうね?」

苦笑いを浮かべながら紗季は自分の席に座った。

紗季はいつも通りだった。
いつもの笑顔であたしを受け入れてくれる。

気になった橙磨さんも気が付いたらあたし達に声かけてきた。

「桑原さんと喧嘩したの?」

あたしは答える。

「いや、何て言うか。あたしの過去を話したって言うか。あたしが言った訳じゃないけど」

あたしの過去を話してくれたのは杏子さんだ。
あたしはずっと寝ていただけ。

『昨日はありがとう』なんて言うが、茜と会うのは一週間ぶり。
だからよくよく考えたら何だか変な言葉に感じる。

あたしから茜に過去の話をしようかと思ったが、そんな勇気は出てこなかった。
『言ったら間違いなく嫌われる』と想像したら声が出なかった。

まあ実際にそうなっちゃったけど。

一方で、実は紗季はあたしの過去を知っている。
あたしから話した訳じゃないけど、紗季から聞いてきた。

この前の夏祭り。
浮かない表情で花火を見ていたら紗季に言われた。

『なんで茜ちゃんに嘘を付き続けるの?』って。

茜が飲み物を買うと出ていったあの時だ。

あたしは紗季に『本当の自分が見抜かれている』と思い、昔の出来事を正直に話した。
目の前に綺麗な花火が散っているというのに、紗季はあたしから目を逸らさずに、真剣に聞いてくれた。

そして最後に、『お互い頑張ろうよ』って、いつもの笑顔を見せてくれたのだ。
あたしの事を軽蔑せずに、本当の松川樹々を紗季は受け入れてくれた。

橙磨さんはまだ知らないと思うけど、きっとシロさんから聞いているのだろう。
さっきあたしが『過去を話した』と言っても、橙磨さんは冷静な表情だったし。

その橙磨さんはあたしにアドバイスをくれる。

「まあ気にしなくていいと思うよ。きっと今の松川さんと『どう接していいのかわからない』だけだから。松川さんから声かけ続けたら、何とかなるよ」

だといいのだけど・・・・・。

橙磨さんの言葉を聞いたあたしは茜の姿を再び確認する。

まるで石のようにびくともしない茜の小さな背中。
完全にあたしのことを拒絶した茜の姿。

でもそれでもいい。
それなら茜を攻略してやる!

絶対にまた振り向かせてやる!

何より『これがまた新しい一歩なんだ』と思ったら、不思議と勇気が出てきた。

また茜と友達になればいいだけの話。