「ねえ、お姉ちゃん。あたしも、バイトしちゃダメかな?」

その一言でお姉ちゃんの表情が一転。
優しかった表情が険しくなった。

「何度も言わせないで。バイトしてどうするの?お金ならあたしが作るから気にしないで」

「でもそれじゃあ」

体が心配だ。
そう言おうとしたが、お姉ちゃんは怒った表情を見せた。

「だから何度も言わせないで!今が楽しいんだったら、遊んでいればいいの!これはお姉ちゃんからのお願いなんだから。樹々が友達と毎日遊んで笑顔を見せてくれれば、あたしも自然と笑顔になるから。今まで遊んだことなかったんだし、『高校生だから、いっぱい遊んでいろ!』ってこの前も言ったよね?」

その言葉に、あたしは目を逸らしてしまった。

というか、お姉ちゃんの方が母に似ている気がする。
『自分よりいつも隣にいる誰かを心配してさ』なんてお姉ちゃんは言っていたが、お姉ちゃんの方があたしの事を心配し過ぎ。

もう高校三年生なんだし、ある程度は出来るし。

ってそんなことを言ったら、また杏子さんに怒られるんだった。
『樹々ちゃんのくせに何様のつもりよ』とか言われるんだろうな。

お姉ちゃんは続ける。

「身体なら気を使っているよ。どうせそんなことを言いたかったんでしょ?」

「うん」

当てられてそれ以上の言葉を言えなかった。

一方のお姉ちゃんは笑顔を見せる。

「じゃあ来年からは、樹々があたしを養ってよ。それだったらいいでしょ?就職先の人事の人から『面接さえ来てくれたら採用』とかなんとか言っていたんでしょ?」

「うん」

「しんどい思いをするのは、あたしだけで十分。これだけは忘れないでね、樹々」

「うん・・・・・」

「んじゃ行ってくるね。おにぎりありがと。食べながらバイトに行くよ」

「うん・・・・・」

もう何も言葉が浮かばなかった。
お姉ちゃんを助けようと考えるも、頭の中は真っ白。

だから曖昧に頷き、お姉ちゃんの背中を見送るのが精一杯の情けないあたし。
そんなあたしに小さなお姉ちゃんの声が聞こえた。

それはあたしを励ましてくれる一言だった。

「一緒に頑張ろう、樹々。これからもずっと二人でさ・・・・・」

作り笑顔ではなく心の底から見せてくれたお姉ちゃんの笑顔に、あたしの目から涙が溢れていた。
表情もいつの間にかくしゃくしゃになる。

でもやっぱり泣いてばっかじゃ駄目だ。
泣いてばっかじゃ、また心配される。

強くならないと。

お姉ちゃんの小さな背中を見届け、一人残されたあたしは涙を拭き取る。
そして『今度は樹々が頑張る番だ!』と、何度も何度も自分に言い聞かせるようにあたしは覚悟を決めた。

『もう逃げない』って。
『支えて貰った人に恩を返すんだ』って。

心の中で誓った。