「お姉ちゃん、ちょっとだけ待ってて!」

「え?」

あたしは急いでキッチンへ向かう。
そして冷蔵庫から今日の晩ご飯の入ったタッパーを開けた。

東雲さんが桔梗お姉ちゃんのために作ってくれた晩御飯。

そしてあたしは急いで調理してまたお姉ちゃんのいる玄関に向かう。

大きなおにぎりをお姉ちゃん手渡す。

「はいこれ!これだったら、歩きながら食べれるでしょ?」

今日の晩御飯である鯖の塩焼きを無理矢理中に入れた特製おにぎり。
調理って言うか、ただ握っただけだけど。

そのおにぎりを見たお姉ちゃんは少し呆れた顔をしていた。
形が悪いから?

「樹々、相変わらず不器用だね」

「うるさい!言うこと聞かないお姉ちゃんに、そんなこと言われたくない 」


そのあたしの言葉を聞いたお姉ちゃんはまた笑った。

「ってか帰ったら食べるのに」

「『夏場はすぐに食材が腐っちゃう』って、シロさんが言っていたの!」

「だったら冷蔵庫入れとけばいいじゃんか」

「電子レンジのない我が家に暖める手段はないよ。どんな美味しい料理でも、暖かくないと美味しくないよ」

まあ、あたしが手渡したおにぎりはずっと冷蔵庫に入っていたから、暖かくないんだけどね。
電子レンジなんて凄い機械はウチにはないし。

お姉ちゃんは降参したのかため息を一つ吐いた。
まるで『言うことの聞かない妹を持った』と言っているような呆れた表情。

つか、お姉ちゃんの方が人の言うこと聞かないくせに。

「あーもう、本当に。樹々は本当に母さんそっくりになってきたね。自分よりいつも隣にいる誰かを心配してさ」

そのお姉ちゃんの言葉に少し苛立ちを覚えたあたしは、ムッと頬を膨らませて言い返してやった。

「お母さんじゃなくて、あたしは松川樹々。お姉ちゃんのことを今一番心配している家族なの!」

そう言った直後、あたしの中に不思議な感情が生まれた。

なんだろう、これ。
こんなの初めてだ。

『嬉しい』と『悲しい』がごっちゃ混ぜになった変な気持ち。

だけどその中で一番強いのは『喜び』だった。
まるで何を成し遂げたような喜び。

でもお姉ちゃんはテキトーに聞き流す。

「はいはい」

お姉ちゃんは気を使ってくれたのか、おにぎりを一口かぶりつく。

そんなお姉ちゃんに、あたしは恐る恐る提案する。
珍しくあたしも自分の意見を述べる。