杏子さんに家に送ってもらったあたしは、自室の部屋の窓を開けた。
ちょっと空気を入れ替えたい。

夜になると少しだけ秋を感じさせるような、涼しい風があたしの茶色の髪を靡かせた。
だけどこの蒸し暑さは変わらない。

部屋の中央にある小さなテーブルには、洗濯物が綺麗に畳まれて置かれていた。

きっと杏子さんが畳んでくれたんだろう。
看病だけでははく、洗濯や掃除までしてくれているし。

埃一つない綺麗な床は輝いているようにも見えた。
本当に感謝の言葉しか出てこない。

そんな中、家の玄関が開いた音が聞こえた。
『誰か来たのだろうか』と、あたしは急いで階段を下りて玄関に向かう。

そこにいたのはあたしによく似た顔のお姉ちゃんだった。
疲れた表情で、お姉ちゃんは靴を脱ぐ。

「おかえり、お姉ちゃん」

お姉ちゃんは疲れた表情でもあたしに笑顔を見せる。

「ただいま樹々。もう大丈夫なの?」

「うん。杏子さんがずっと看病してくれた。お陰で治っちゃった」

「よかったね」

目の前のあたしのお姉ちゃんの名前は松川桔梗(マツカワ キキョウ)。
手入れをしてない黒い長髪に、土で汚れた顔。

確か今日は工事現場のアルバイトだったんだ。
いつ見ても疲れた表情しか浮かべない、あたしのためだけにずっと頑張っているお姉ちゃんだ。

お姉ちゃんは力を振り絞るようにもう一度笑みを見せると、リビングへ向かう。

そして電気を付けると座ることなく着替えていた。
部屋着ではなく、アルバイトの制服に。

・・・・・。

そんなお姉ちゃんの姿に、あたしは恐る恐る聞いてみる。