女の子の名前は桑原茜(クワハラ アカネ)。
なんと凄腕のピアニストだった。

茜の演奏を聴いたことがあるが、その茜の実力にあたしは驚いた。
うまく言えないけど、『天才』かと思ってしまった。

初めて茜と話したその日からから茜とはすぐに仲良くなった。
人見知りの激しい茜を見ていると、どこか不安になるけど、不思議と『ずっと彼女の側にいたいな』って思った。

何だか『誰かがいないと何も出来ない妹』みたい。

まあ、あたしもそうなんだけどね。
一人じゃまだ何も出来ないし。

そんなある日、茜が知らない女の子と話していた。
女の子にしては身長が高く、いつもポニーテールの女の子。

名前は山村紗季(ヤマムラ サキ)。

紗季は頭の回転が良く、テストの成績は常にトップの成績。
同い年なのにお姉ちゃんを見ているような、大人っぽい雰囲気の女の子だった。

いつもあたし達に優しく接してくれる。

でもその実、体が弱くてまともに運動の出来ない女の子だった。

入退院を繰り返す不自由な女の子。

そんな紗季とは茜を通じで、あたしも仲良くなれた。

どうやら紗季と茜は、小学生時代の親友らしい。
ちょっと驚いた。

仲間が出来たあたしは、新しい自分を作り出した。
いつも二人の前では笑顔を見せた、自分の過去を悟られないように頑張った。

シロさんと杏子さんの提案で、あたしは『勉強がついていけなくなるほどの馬鹿なキャラ』を演じた。

ワザと目覚まし時計の時間をずらして学校では寝坊したり、待ち合わせの一時間後に集合場所に向かった。

そうやってあたしは今までにない『個性』を作り上げてきた。
嘘のあたしを演じ続けた。

だってあたしは元々気弱で、泣き虫な女。
暗くて自分の意見を言えないタイプの人間だった。
多分茜とよく似ている。

それに昔のあたし、何にも特技も趣味もないし。
そんなあたしと遊んでも、全然楽しくないと思うし。

何より彼女達だけは手離したくなかった。
どんな嘘をついてでも、茜や紗季の側から離れたくなかった。

ただそれだけの思いであたしは二年半、周りに本当の自分を隠して高校生活を過ごしてきた。

『嘘ついてでも、嫌われたくない』と思った。
今思うと本当に馬鹿だと思うけど、当時のあたしは必死だった。

『あの頃に戻りたくない』と言う言葉だけであたしは行動してきたのだから。

まあ、今思うと茜には本当に申し訳ないけど・・・・・。

ごめん茜、紗季・・・・。

でもそれが正義だと思っていた。
嘘が正しいと思っていた。

だから、松川樹々はいつも笑顔で大馬鹿で、他人に迷惑をかけちゃうトラブルメーカー。

でもそれは『偽り』のあたし。
鏡の向こうにいる幻想のあたし。

本当のあたしは暗くて、何も取り柄のない残念なあたし。

だけど、『偽り』でもいいとあたしは思う。
嘘つきだと言われてもいい。

そのあたしの『理想』がいつか、『本当の自分』になるならそれでいい。

とにかく新しい自分を見つけたい。
じゃないといつまでも過去の自分に飲み込まれると思うし。

ただそれだけ。

それが松川樹々と言うあたしの人生だ。

あたしの辛くて友達にも話したくない過去のお話・・・・・。

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