「ねぇ、名前なんていうの?」

最初は軽い気持ちだった。
『友達がいないなら、あたしが友達になってあげる』って少し上から目線で。

『グループに入れてもらえるように、目の前の女の子は練習台』と思ってあたしは声をかけてみた。

一方の女の子は驚いていた。
まるで天敵に見つかった動物のような、脅えた目をしていた。

あたしが茶髪で『ヤンキー』に見えるからだろうか。
あたしが『ライオン』に見えたから、食べられると思ったのだろうか。

ってかそんなことはしないよ・・・・・。

あたしは続ける。
昨日の夜に何度も練習した笑顔を女の子に見せる。

「あっ、ごめん。そうだよね、あたしから名乗らないとね、松川樹々です!えっと、よかったらお友達になりませんか?」

緊張丸見えのあたしの声に、女の子はあたしを見つめていた。
そして再び女の子は下を向く。

もしかして、イヤホン付いたままだから何も聞こえていないとか?
だったらあたし、メチャクチャ恥ずかしいだけなんですけど。

・・・・・・。

いくら待っても返事は帰ってこない。
女の子に視線を送っても、良い返事は返ってこない。

そんな女の子を見てあたしは肩を落とす。
惨敗な結果に、思わず言葉を失う。
残念だけど諦めよう。
でもいい練習になったから次は本番だ。

そう自分に言い聞かせて、あたしは再び気合いを入れる。

同時に『次は誰に声を掛けに行こう』かと迷っていた。
やっぱり話しやすい女の子がいいなって思いながら、あたしは歩き出す。

・・・・・・・。

でもその時、小さな女の子の声が聞こえた。
聞き取るのがやっとの、本当に小さな声。

「えっと、桑原茜(クワハラ アカネ)です・・・・。あの、よろしく・・・・お願いします」

あたしが振り返ると、声を掛けた女の子が今にも泣きそうな表情で、あたしを見つめていた。
顔も真っ赤に染めてあたしを見ていた。

だけど彼女はすぐに目を逸らす。

なんかその仕草、スッゴク可愛いかも。
新手の動物かな?

一方のあたしはその震えた声を理解するのに、時間がかかった。
でもすぐにあたしは新しい自分を見せる。

過去の自分を押し殺す。

「うん!よろしくね、茜って言うんだ!中学どこだったの?」