新しい中学校ではいじめられることはなかった。
名字を変えたからだろうか。

あたしに話し掛けてくれるクラスメイトはみんな、優しい表情を浮かべていた。

ちなみに茜や紗季とは別の中学校だ。
あたしが通ったのは、家から少し離れた中学校。

その中学を選んだ理由は特にない。

だけどあたし、相変わらず暗い印象から友達が出来なかった。
いつも教室で一人だった。

だってどんな会話をしたら良いのか分からなかったし。
あたし自身、まだ『友達』と言う言葉に抵抗があったし。

誰かと一緒にいると、不安に押し潰されそうになるし。
でもその代わり今まで出来なかった勉強を真面目に頑張った。

気が付けばクラスで一番になっていたっけ。
本当に勉強だけは誰にも負けなかった。

正直言って、今も学力には自信がある。

本気を出したら、学年トップの紗季と良い勝負になるんじゃないだろうか。
嘘じゃないよ。

まあ、本当は勉強の出来るあたしをこんな『お馬鹿キャラ』にしたのは、あの滅茶苦茶姉妹だけどね。
『樹々ちゃんには勉強キャラは似合わない』って言う、心の底から理解出来ないシロさんの一言でさ・・・・・。

あたし人形じゃないのに・・・・・。

ちなみに『髪を茶髪に染めろ』と提案してきたのは杏子さんだ。
『樹々ちゃんは地味過ぎる』と言う意味の分からない一言でさ。

ホント、あたしをなんだと思っているんだろう・・・・・。

その滅茶苦茶姉妹と出会ったのは中学三年生の時。

倒れていたあたしを救ってくれたのが、滅茶苦茶姉妹こと、姉の杏子さんと妹の美憂さんだ。
仲良しの大人の姉妹さん。

妹の城崎美憂さんは白町カフェの店長さん。
責任感が強く、あたしはシロさんに何度も支えられてきた。

あと性格は悪い。

姉の杏子さんは結婚していて、二人の子宝に囲まれた幸せな人。
食費に困るあたし達を家に招いて、晩ご飯を食べさせてくれる優しい人。

でも性格が悪い。
多分シロさんより悪い。

それと杏子さんの旦那さんである東雲さんと、その二人の子供である瑞季と向日葵に会った。
人殺しの娘に嫌な顔一つせず、あたしとお姉ちゃんを、まるで家族のように接してくれた。

そんな若槻家にあたしは生涯恩を返し続けたとしても、『一度の人生だけじゃ足りないのだろう』と感じていた。
それくらい頭が上がらない存在だ。

その一家と出会ったあたしは、近くの高校に無事に合格。
夢にも見た高校の入学式を迎えた。

お姉ちゃんが背中を押してくれたから、あたしは高校生になることが出来た。
だけどあたしは中学生同様にいつも一人。
高校のクラスメイトも知らない人ばかりであたしは不安になる。

同時に心の中でまたあの頃の記憶が蘇ろうとする。

と言うかもう嫌だ。
あの頃の日々には死んでも戻りたくない。

戻るくらいなら、やっぱり死んだ方がましだ。

だからこそここで友達を作らないと。自分に負けずに戦わないと。
現状が嫌なら嫌だと訴えないと。

一生自分は変われない。