あたしが小学六年生になり、同時にお姉ちゃんも中学を卒業した。

お姉ちゃんは高校に進学せず、社会人として道を歩み始めた。
アルバイトを始めて、朝から夜までお姉ちゃんは働き始めた。

中卒の道を選んだ理由は、あたしを幸せにするため。

『せめて樹々は高校だけは卒業してほしい』というお姉ちゃんの優しい言葉に、あたしはお姉ちゃんに抱きついて枯れるほど涙を流した記憶を今でも鮮明に覚えている。

『いつかはお姉ちゃんのために頑張ろう』と思った記憶を今でもしっかり覚えている。

だからお姉ちゃんが働くようになってから、あたしは学校や施設内でのいじめにも頑張って耐えた。
『お姉ちゃんがあたしのために頑張っている』って思ったから、あたしも頑張った。

涙を見せることもなくなった。

それに『泣いた所で意味がない』って気がついたのもこの頃だった。
と言うか、もう泣いても誰も助けてくれないし。

その後、あたしは中学校に進学した。
小学生と同じようにいじめられる日々が続いたけど、ある日からそのいじめはピタッと止まった。

最初から何もなかったかのように、いじめの歯車は止まる。
それは、あたし達が施設を離れたから。
同時にあたし達が今住む街に引っ越しをして転校したから。

とある日。お母さんの遺品を探っていたら、お母さんの実家の鍵を見つけた。
母の両親、あたしの祖父母が住んでいたみたいだが、あたしが産まれて間もないときに他界した。

だから今は空き家となっているみたい。

その初めて行く母の実家に、あたしは思わず笑ってしまった。

だって、家の前に市営のバス停が置かれているんだもん。
それも敷地内に。

ずっと空き家だったため、『バス停を置く場所に最適だったのだろう』と思った。
この辺りは道路ももあまり広くないし。

まあ、今となってはもうそのバス停はないけどね。

確か杏子さんが市に抗議しに行ってくれたんだっけ。
『人が住んでいる敷地内にバス停を置くなんて非常識過ぎる』って言ってくれたんだっけ。

引っ越しした日からあたしとお姉ちゃんの人生は再スタートを切った。
それが中学二年生の頃の話だ。

新しい家と共に、あたし達は再度頑張ろうと誓った。

それと生まれ変わる意味でも、名字を母の名字に変えた。
前はお父さんの姓である『高原』と名乗っていたあたし達だけど、この街に来てから松川と名乗るようになった。

何だか本当に生まれ変わったような気分。