地獄のような日々の始まりは突然引き千切られるように幕を上げた。
あたしの今までの生活は跡形もなく消え去った。

いまから約十年前に大規模な通り魔事件が起きた。
死者十人、怪我人十一人を出す社会問題にもなるほどの大きな事件。

無差別に大量の人を傷付ける最低な事件。

その最低な事件の犯人は、あたしの父親だった。
いつもあたしの事ばかり考えてくれる、優しいお父さんだったのに・・・・・。

動機は不景気によるリストラ。
家族を支えることしか考えたことのない、お父さんの哀れな姿が呼び起こした大きな事件。

『コイツらが生きようとするから、俺の居場所が無くなった』ってお父さんは事情聴取の時にそう叫んでいたらしい。

そんな大好きだったお父さんの行動で、当時小学生だったあたしの生活は大きく変わった。
どこに行ってもあたしの居場所はない。

『人殺しの娘』というレッテルを貼られたあたしは、信用していたクラスメイトにも裏切られた。

そして誰もあたしの言葉を信用してくれなかった。
気が付けばひとりぼっちになっていた。

あたしは何もしていないのに。
何も迷惑をかけていないのに。

ただ一生懸命生きているだけなのに・・・・・。
そんなあたしは毎日いじめらるようになった。

転校して逃げても、その先に待っているのはまたいじめの繰り返し。
逃げても逃げても、あたしの居場所はなかった。

『生きるのが心の底から辛い』と思った瞬間だった。

でもそんなあたしの唯一の心の支えは、あたしの家族だった。
いつも優しい暖かい家族だった。

四つ上のお姉ちゃんも同じ目にあって、あたし同様に悩んでいた。
お母さんも職場から追い出された。

ちなみにお母さんが職場から追い出された理由は『人殺しと一緒に仕事がしたくない』という理由だ。
お母さんは人を殺していないのに。

お母さん次の職場を探しても、どこにも雇ってくれなかった。
理由はやっぱりどこに行っても同じ。

職場を追い出された時のように、企業側は『人殺しは雇いたくない』と言っていた。
誰もお母さんに手を差し出す人間はいなかった。

そんなあたし達でも生きる希望は微かにあった。
楽しいと思う時間はあった。

それは家族三人で晩ご飯を囲む時間。
それが何よりの楽しみだった。

少ないお金で食べるものは限られたけど、その時間が本当に好きだった。

現実を忘れて、みんなが笑顔になれる。
命と家族の次に大切な宝物。

唯一『あたし』が『あたし』でいられる場所。

なのに・・・・・・。

・・・・・・・。