そんな中瑞季は会話に参加せず、ずっとテレビを見ていた。

瑞季が見ているのはグルメのロケ番組だ。
本当に彼は料理が好きなのか、瑞季は一秒もテレビから目を離さない。

でもあまり食べることには興味はないのか、あまり箸は進んでいない。

そしてそのグルメ番組が終わると、三分間のニュースが流れた。
立派なスーツを着た男性がテレビに写る。

同時にその男性のニュースを読み上げる声が聞こえてくる。
「こんばんは、ニュースの時間です。本日午後二時頃、『自分の娘を殺してしまった』と、父親と名乗る男から百十番通報がありました」

娘と言う言葉に反応したのか、自然と杏子さんや東雲さんの視線はテレビに移る。

ニュースを読み上げる男性は一つ間を置くと続ける。

「殺人容疑で逮捕されたのは、亡くなった墨田優香ちゃんの父親の墨田次郎容疑者。警察の調べによりますと炭田容疑者は、『娘が言うことを聞かなかったから殺した』などと、容疑を認めています。警察は更に詳しい動機を調べています」

その暗いニュースを聞いた杏子さんは、笑顔で向日葵の方を見た。

「最近向日葵が言うこと聞かなくなったわよね」

「こらこら杏子さん。冗談でもそんなこと言わないでください」

苦笑いを浮かべる東雲さんのその言葉に杏子さんは小さな笑みを浮かべた。
『はいはい』と返事をすると杏子さんが大好きな缶ビールを飲み干した。

そんなお母さんに向日葵は問い掛ける。

「お母さん、ビールは?もういらないの?」

少し顔を赤く染まる杏子さんは答える。

「そうね。じゃあ一番冷えたのくれるかしら?」

「はーい」

向日葵は可愛らしい返事をすると急いで冷蔵庫へ向かう。
そしてお母さんのために新しい缶ビールを持ってきてくれた。

あたしと違って、気遣いの上手な女の子だ。
ちなみに東雲さんはお酒は飲めないみたいで、ずっと子供達と同じお茶を飲んでいた。杏子さんは煙草を吸うけど、東雲さんは煙草も吸わないみたい。

そんな仲の良い親子のやり取りの隣で、瑞季はあたしの異変に気が付く。

「どうしたのですか?樹々さん。怖い表情していましたけど」

「えっ?」

瑞季の言葉に、あたしは周囲を見渡していた。
東雲さんや杏子さんは驚いた表情でこちらを見ている。

同時に自分が涙を流していると言うことに気が付いた。
楽しい食卓に、あたしの涙が溢れ落ちる。

でも私は慌てて涙を拭き取ると否定する。
また迷惑を掛けていると気が付いたから。

「だ、大丈夫です!えっと、東雲さんのお味噌汁が美味しくて!美味しすぎて、涙が出たんです。あはは・・・」

そんなことを言ってもみんなの表情は晴れない。
どうしたらいいのだろうか。

・・・・・・・・・。

情けないな、あたし。
本当に何をやっているのだろう。