「体調は大丈夫?熱も図ってみよっか」

「はい。今朝よりは楽になりました」

計った体温計も平熱を表している。
『明日から学校に行けそうだ』と、あたしは安堵した表情を見せる。

流石にこれ以上休んだり遅刻をしたら、本当に留年しそうだ。
それだけはなんとしても避けないと。

桔梗(キキョウ)お姉ちゃんにも怒られるし。
まあでも、過去の遅刻はあたしのせいじゃないんだけどね。

何て言うか、『無理矢理遅刻させられた』って言うか。
『キャラ作り』って言うか。

「じゃあご飯にしましょ。みんな待っているから」

杏子さんの言う『みんな』という言葉に、あたしは躊躇った。
それと『ご飯』と言う言葉にも。

「えっでも。もう熱はないですし、それに食費も払ってないですし。あと、迷惑かけてばっかですし」

直後、杏子さんは額にシワを寄せて怒っていた。
まるで言うことを聞かない娘を持ったお母さんのような表情。

「あなたねぇ、私の旦那の料理が食べれないの?」

「そうじゃないです!えっと、その、ひゃあ!」

痩せたあたしの体を杏子さんは軽々と持ち上げる。
そして汗まみれの服を無理矢理脱がされ、違う服に変えてくれた。

流石二人の子供を育てるお母さんだ。
昔やっていた剣道のせいか分からないけど、力仕事も得意なんだろうか。

そのお母さんは相変わらず私に対して怒っている。

「病人は病人らしく、お母さんの言うことを聞きなさい。まだ十七歳なのに何様よ、本当に。まだ一人で生きていけないくせに」

その杏子さんの言葉を聞いたあたしは気が付いた。

『あたし、責任感が無さすぎる』って・・・・。

『熱はない』って、これからあたしは自炊するのだろうか。

『食費』って誰のお金を渡そうとしているんだろう。

『迷惑』ってこんなに心配してくれているのにも関わらず、こんなふざけた事を言っている時点で『杏子さんに迷惑をかけてしまっているのではないか?』って。

・・・・・・・。

情けないな、あたし。
昔から全然成長していない。

そんな情けないあたしの背中を押す杏子さん。

「早く行くわよ。ほら、鍵持って。あと薬も持った?瑞季も向日葵も待っているのよ」

その二人の名前に、私は少しだけ温もりを感じた。

杏子さんの子供の名前だ。
中学一年生の瑞季(ミズキ)と、小学五年生の向日葵(ヒマワリ)。

そしてそれはずっと出来なかった、あたしの友達の名前。