「この子、ただの夏風邪だから心配しないで。もう治りかけているから。って言っても、その前は胃腸炎。ホント、新学期が始まったって言うのに、相変わらず学校が嫌いみたいね」

学校が嫌い。
その最後の言葉に私は違和感を覚えた。

とてもそうは思えないが本当なのだろうか。
学校にいるときの樹々はいつも元気で笑顔だし。

と言ってもそれは私と紗季の前だけなんだけど。

でもその前に疑問が山ほどある。

「えっと、城崎さんのお姉さんが看病して、ってあれ?樹々の両親とかは?」

私の頭の中は疑問だらけだった。
あまりにも頭の中が混乱して、聞いてはいけない質問までしてしまった気がする。

一方の杏子さんは少し驚いた表情見せた。
怒られるかと思ったが、全然違った。

「ん?あぁ。なんだ。樹々ちゃんまだ話してなかったのね」

嫌な予感がした。
ババ抜きでいきなりジョーカーを引いてしまったような、触れてはいけないレッドカードのような杏子さんの言葉に。

「えっと、その・・・・だったらいいです!知られたく無いことだって、ありますよね?」

私だって葵や愛藍のことは話したく無かった。

だって辛いから。
心の底のロッカーに何重も鍵をかけて閉じ込めたいと思っていたから。

そんな心を抉るような過去だったら、樹々も言いたくないはずだ。
と言うか樹々もそう言っていし。

でも杏子さんは待ってくれない。
「えー残念。でも樹々ちゃんからは『茜ちゃんには話してもいい』って聞いているんだけどね?」

「えっ?」

「聞きたい?ってか、樹々ちゃんは『自分から話したくないから、変わりに茜ちゃんに話してほしい』って私に言っていたわよ。そんなに、あなたの事を信頼しているのね」

私は息を飲んだ。
そして構えた。

『樹々にどんな過去あったんだ』って。

『それは私の力で何とかなるのだろうか?』って。

だけどヘタレな私。
本音を言うと逃げたかった。

ここに来てしまった事を後悔している。

でも杏子さんの優しい笑みを見ていたら逃げられなかった。
と言うか、逃げてはダメな気がした。

まるで杏子さんに『樹々を救ってほしい』と言われている気がして・・・・・。

・・・・・・。