ルビコン

私の家から歩いて約十分。

先生から聞いた住所を辿って来た目的地は、二階建ての一軒家だった。
豪華とは言えない普通の家。

手入れされていないのか庭には雑草が映えて、カレージには古びたが白い車が一台。
標識の『松川』も汚れでよく見えない。

それと二階の一室以外の窓は全て雨戸が閉まっていた。
最近台風が来た訳じゃないのに。

まるで住んでいる人がどこかに行ってしまったかのような家。
そしてそのまま長い年月が過ぎてしまったかのような、不気味な雰囲気が漂う家。

その姿はまるで廃墟のようにも見えた。
本当に不気味な家。

でも本当にこの家の中に樹々はいるのだろうか。
インターホンを鳴らせば彼女はいつもの笑顔で現れるのだろうか。

試しにインターホンを押してみると鈍い音が響き渡った。
まるで電池が切れそうな不協和音が鳴り響く。

でも待っても誰も現れない。
親はいないのかな?
樹々もいないのかな?

様々な疑問が浮かんだが、よく見ると玄関の扉が僅かに空いていた。

どうやら鍵は空いているみたい。
不用心な家だ。

よくないと分かりつつも、私は玄関の扉を開ける。

雨戸で窓を閉めているためか、家の中は空気が汚れている気がした。
埃の臭いが酷い。

玄関には樹々がいつも休みの日に履いているお気に入りの黄色のスニーカーと、学校指定の靴の二足。
それ以外の靴は見当たらない。

家族の靴がないってことは、樹々以外は外出中なのだろうか。

家の中からは微かに人の声が聞こえる。
多分二階からだろう。

誰かいるのかと思ったが、陽気な音楽も聞こえる。
恐らくテレビの音だろう。

その音を目指して私はゆっくり足音を立てずに、まるで強盗や忍者になったつもりで私は階段を登った。
と言うか家主の許可なく入った時点で既に強盗と類だ。

『私もどうかしている』と思うけど、『この家の主は何をしているのだろうか』と疑問が強くなる。