ルビコン

「私には連絡来てないよ。紗季の方は連絡・・・・って来てないか」

愚問だった。
そんなことを聞いてくるってことは、紗季も知らないって事なんだろう。

一方の紗季は首を傾げている。
本当は何が言いたかったのかわかるくせに。

だから私は言葉を付け加えた。

「今日は寝坊じゃないの?」

って言っても根拠はない。
適当に言って後悔したかも。

「そうかな?」

「でも電話しても出ないし。メールも返ってこないし。樹々のやつ、待ち合わせの場所にも現れないし」

家が近い私と樹々はいつも一緒に登校する。学
校近くの交差点で、私達はいつも待ち合わせをしている。

まあでも遅刻するのが当たり前のような樹々だ。
一緒に登校出来る日なんて、週に二回か三回くらいだけど。

樹々、結構な頻度で遅刻しているし。

「心配だね。そういえば学校休む時って、保護者の連絡ないと休めないじゃなかったっけ?」

その紗季の言葉に、私はこの一週間の朝のホームルームを思い出す。

本来ホームルームでは今日の欠席者は事情と名前を読み上げられる。
だけどこの一週間に樹々の名前はない。

担任が言わないってことは、学校側も知らないのだろうか。
もし学校側が知らなかったら、樹々の親がまだ連絡していないってことなのかな。

「紗季って、樹々の両親見たことある?」

私の質問に、紗季は購買で買った紙パックのジュースをストローで啜りながら、首を横に振って否定する。
そして私は肩を落とす。

「そっか。思えば二年間ずっと樹々と一緒にいるけど、樹々のこと何にも知らないかも」

そう呟くと同時に、夏祭りで見せた樹々の泣き顔を思い出す。
あの時、樹々には言えない事情があるんだと確信した。
そして『今まで見せていた笑顔は偽りじゃないか』って、心の中で樹々を疑った。

力になれることがあれば協力したい。
でも樹々が話してくれない以上、何も出来ない現実。

まあ、私もあまり人の事を言えない立場だけどね。
二年半、私は自分の過去をずっと黙って生きてきたし。

樹々にずっと迷惑かけてきたし。

一方で不安げな私の言葉を聞いた紗季は私に笑みを見せた。
いつもの私を慰めてくれるような優しい表情。

「そんなものだよ、茜ちゃん。樹々ちゃんだって茜ちゃんの過去を知ったのも最近じゃん。そんなものだって。それに私に妹が居るのも知ったのも最近じゃなかった?」

その紗季の言葉は心のどこかに刺さった気がする。
薄っぺらいような、濃いのかわからない関係。

それを言葉では『友達』と言うらしい。

友達か・・・・。

もう何がなんだか分からなくなってきたかも。
考えるだけで頭が痛くなる。