「お父さん以外の人から初めて貰ったお土産だから」

私は友達は少ない。
人との関わりも少ないし、部活もアルバイトもしていない。

友達以外で関わっている人と言えば、ピアノ教室の春茶先生と栗原先生。
あと城崎さんだけだ。

だから言葉通り、父以外からお土産なんて貰ったことがなかった。
初めて貰ったお土産だから、何だか嬉しかった。

それだけの理由だ。

一人で生きる、寂しがり屋の小さな幸せ・・。

「そっか、ごめんな。本当にごめん。適当なこと言って、本当にごめんな」

兄は私を抱き締めると、何度も何度も私の耳元で謝っていた。
同時に私の頬に水が落ちた。

『兄も泣いているんだ』とすぐにわかった。
そして『もういいよ』って私が言っても、兄は離すこと無かった。

やがて私の体から温もりが消えた。兄は私を離すと私にまた笑顔を見せた。

「じゃあ後で感想聞かせろよ。お兄ちゃんの自信作だからよ」

そう言った兄はリビングに戻っていった。
同時に扉も閉めて廊下には私一人。

でも二人の声は廊下からでも聞こえる。

「なんだ茜泣いていたのか?」

「だな。でも茜の泣いている所なんて殆ど見たことないし。いじめられていた時も絶対に泣かなかったしよ」

「だったら『嬉しくて泣いた』ってことだろ?考えすぎなんだよ朱羽は」

リビングの扉越しに聞こえる父と兄の言葉に、また涙腺がやられそうだった。
また泣いてしまいそうだったから、私は急いで自分の部屋に逃げ込んだ。