ルビコン

「ちょ!何で泣くんだよ。ってか何?どうした?」

「何でもない」

「何でもなかったら泣かないぞ?普通。っかお前、今日何かされたんでしょ?」

私は信じて欲しいと言わんばかりに、大きく首を横に振って否定した。
それだけはホントに全力で兄に伝えたい。

一方の兄は掴んでいた私の腕を離すと私の頭を撫でた。
まるで小さな子供を慰めるように、何度も何度も・・・・・・。

いや、兄から見たら私はまだ小さな子供なんだろう。
図体だけは大きくなった生意気な妹。

仕事の忙しい父の変わりに、十歳から私を見てくれたんだ。
私の全てを兄は知っている。

そんな兄を私の視線から見たら、お兄ちゃんと言うより親のような存在だ。
母は存在せず父も不在の中、何事も相談するのも全て兄に相談していた。

良いと言われれば私は喜ぶし、ダメだと言われたら私は落ち込んだ。
まるで私の中の決定権は、兄の中にあるみたいに。

幼い頃は何でも兄の言うことを聞いていた。

私はお兄ちゃんに向かって飛び付いた。
お酒を飲んだからお兄ちゃんの体温が上がっているのかはわからない。

でもとても暖かかった。
まるで、私の冷めきった心を温めてくれている気がして、私はすごく嬉しかった。

こんな私にも味方がいるんだって思ったら、また涙が止まらなかった。

そんなお兄ちゃんはまた私の頭を撫でる。

「じゃあさ、変わりに教えてくれないか?あのシュークリームを食べちゃいけない理由」

私は顔を上げると兄は笑顔でそう言っていた。

一方の私は恐る恐る問いかける。

「笑わない?」

「馬鹿か。何でそんなことするんだよ。いいから教えろよ」

再び兄は私に優しい表情を見せてくれた。
その『何でも聞く』と言わんばかりの優しい微笑みに、私も恥ずかしいけど、覚悟を決める。

ひとりぼっちの素直な気持ちを兄にぶつける。