桑原朱羽(クワハラ シュウ)とは私の兄の名前だ。

私と同じ高校卒業してから、地元の観光企画部に配属。
死んだも同然のこの街を景気付けようと、海や数々の島を活かした観光企画している新任部長だ。

父に似ているのか、私と違って身長が高く、幼い時やっていたと言う柔道のせいで肩幅は広めだった。
顔立ちも良い方で、職場の女子から人気があるそうだが、私同様異性に全く興味がないらしい。

でも私の存在が今の兄を作ってしまったのは事実。

未成年の私という妹の子守りのため、家と職場を往き来する日々が十年も続いてしまった。
合コンにも一度も参加したことがないらしい。

兄は十歳の時から私のことを見てくれた。
兄というよりはまるで『親』のような存在だ。

本当に『感謝』という言葉だけでは表せないほど、私にとっては偉大な存在。
さっきは兄に怒ったけど、正直言って頭が上がらない存在。

母はいない。
私が生まれてすぐに亡くなったらしく、父や兄に聞いてもいないの一点張りだった。

家族だというのに名前も顔すら知らない存在。

父である桑原香一(クワハラ コウイチ)は『商船会社で働くサラリーマン』って、さっき生まれて初めて父の職業を知った。

活動拠点が海外なので、殆ど連絡は取れない。

前に会ったのも恐らく中学生以来だろうか。
あまりにも久しぶり過ぎて、何年ぶりかなんて正直覚えていない。

でも今年いっぱいまで日本で活動することが決まったらしく、我が家に帰ってきたようだ。
お父さんの会話はいつも桑原家の食卓を明るくしてくれるから、私は一緒にいるだけですごく嬉しい。

そんな我が家の食卓は、娘であり最年少の桑原茜の話で盛り上がる。