そこに居たのは大きな身体の四十代くらいに見える男の人が立っていた。
久しぶり顔を見せる娘の姿に、目の前の男の人は笑みを見せる。

「おう!茜、久しぶりだな。元気していたか?」

その懐かしく心に響く声に、私は思い出した。

「お、お父さん?」

白髪に染まりそうなオールバックの髪型に、サラリーマンのようなスーツ姿。
そして笑うと兄にそっくりなその表情に、私は嬉しかった。

でもやっぱり驚きが一番。

「なんだ、なんだ?大好きなお父さんと久しぶりに会えて、そんなに嬉しいのか?えっ?朱羽と違って、茜は素直で可愛いな、おい」

そう言って父は私の頭を撫でた。
その何年ぶりかわからない温もりに、油断をするとまた涙が出そうだった。

一方でリビングにいる兄の声が玄関まで聞こえて来る。

「おいこら!誰と違って素直だって!?」

その兄の声を聞いた父は一瞬だけ焦った表情を見せたが、すぐに父も言葉を返す。

「桑原朱羽と違って素直で可愛いなって言ったんだ!なんか文句あるか!?」

「なんだとクソジジイ!」

「誰がクソジジイだ!」

「でも素直なこと言っただけだぜ。白髪まで生えてもうクソジジイじゃん。何が間違っているんだよ!」

「そう言うところが茜と違って可愛くねぇんだよ!この野郎、土産あげねぇぞ!」

「いいぜ!俺は酒さえあれば、女も出世も要らないもんな」

「ああ、ああ、全く可愛くねぇ息子に育ってしまったぜ、どこで間違えたんだ?」

「この家庭に生まれた時点で俺の人生は間違っていたんだよ、俺様にちゃんと謝罪しろクソジジイ!」

「んだとコラァ!こっち来いや!説教してやる!」

どうでもいいが、早く玄関の扉を早く閉めてほしい。
近所に丸聞こえだ。恥ずかしいからやめてほしい。

父の重そうな荷物。
キャリーバックに、大きな鞄。

そしてアルファベットで書かれたどこかの店の袋。
英語ではないのは確かだ。

それと父の腕には、何百万もしそうな金色の腕時計を付けている。
今は夜の七時だと言うのに、父の腕時計は何故だか十二時を指していた。

どこの国の時間だろう?

父が荷物に対して重そうな仕草を見せるため、私は変わりに大きな鞄を持ってみる。

でもこれがまた重い。
まるでオモリが入っていそうな重さに、私の腕の骨が折れそうだった。

「それ全部土産だ。後で驚くぞ」

そう言って結局父が持ってくれた。
笑顔で持ち上げる父の姿に私は驚いてばっかりだった。