洗面所で手を洗った私は、鞄を持ったまま冷房の効いた涼しいリビングへ入る。
テレビでは夜の有名なバラエティ番組がやっている。

そして賑やかな雰囲気の食卓には数種類の料理が並んでいた。
鮮魚の刺身や鶏の唐揚げ、焼き魚にサラダやハンバーグなど。

今まで見たことのない品数のバラエティに、私は驚きを隠せない。

「ど、どうしたの?お兄ちゃん」

兄は笑って答える。

「今俺が食べたいものを作ってみた。残ったら俺の酒の宛にするから気にすんな。でも刺身は全部食えよ。すぐに痛んじゃうからよ」

「なんかあったの?」

なんでこんなに豪華な晩ご飯にするのか、理由が聞きたかった。
『食べたいものを並べた』という理由だけじゃ納得の出来ない品数だ。

何を企んでいるんだろう、お兄ちゃんは。

「いいから、いいから!」

無理矢理兄に背中を押されて、私は椅子に座らされる。
終始意味のわからない兄の行動や表情、そして発言に私は何一つ理解ができなかった。
こんなお兄ちゃんを私は見たことない。

だけどその食卓を見て、私はあることに気が付いた。
いつもと違う所に気が付いた。

食卓には箸が三つ。
その内の二つは兄と私だとして、もう一つは誰なんだろうか。

兄の友人?
まさか、彼女?

でも兄も今年で二十八歳。
そろそろ結婚を考える時期なのだろう。

だったら彼女の一人や二人くらいは納得するかも。

やがて缶ビールを片手に兄も食卓に座る。
そして手を合わせて晩御飯を食べようかと思った時、突然インターホンが鳴った。

「はーい。茜、ちょっと見てこいよ!」

「なんで私?お兄ちゃんの彼女とかじゃないの?」

私の驚いた表情に、兄は再び笑った。

「妹の子守りしなきゃいけないのに、彼女なんて作る暇なんて無いだろ。アホか」

アホは余計。

「じゃあ誰?」

その時、またインターホンが鳴る。
『早く出ろ』と言わんばかりのメッセージに、私は焦る一方だった。

「いいから行ってこい。ビックリするからよ」

「ビックリ?」

何がなんだかわからない私は席を立つと、玄関に向かう。

そこには大きな荷物を持った大きな人のシルエットが映っていた。
男の人だろうか?

でもいったい誰?
大柄な体格のお兄ちゃんの彼女さん?

そんな様々な疑問が浮かぶ中、私はゆっくりと玄関の扉を開けた。
誰がいるのか確認する。

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