ルビコン

私は『駅までいい』というのに、愛藍はわざわざ電車にも乗って私を家まで送ってくれた。
言うこと聞かないから途中は喧嘩になったけど、それもそれでありかなって思う自分もいた。

だって本当に久しぶりなんだもん。
愛藍とちゃんと話できるなんて。

本当に昔の日々みたい。

家に辿り着いた私は扉を開けると、美味しそうな香りがした。
夕食が出来ているいるのだろうか。

でも同時に思い出す。
『私、お兄ちゃんと喧嘩をして家を飛び出した』って。

私は靴を脱ぐとリビングへ向かわずに、自分の部屋に戻ろうかとしていた。

やっぱり兄に合わせる顔がない。
兄がどう思っているかは知らないけど、私は嫌だ。

きっとリビングに兄がいるんだろう。
物音立てずに部屋に行けばバレない、はず。

・・・・・・・。

「こら、どこいくんだ?ちゃんと手を洗ってこいよ」

突然何の気配もなく、リビングから兄が出てきて私は驚く。
また怒ってもいいけど、私はそんな気分じゃない。

だからここはいつもの私を取り戻そうと、私は小さく深呼吸。

そしていつもの私も見せる。

「あっ、うん。部屋に荷物置いてから」

でも、何でお兄ちゃん相手に緊張してるんだろう。

「荷物置く前に『ただいま』が先だろ?こんな時間までどこ行っていたんだよ?」

「えっと、楽器屋。あと、友達と遊んでた」

「だったら連絡しろ。勝手に出ていったら心配になるだろ?」

案の定怒られた。
軽くゲンコツも落とされた。

想定はしていたけど、何かが違う。
どうして兄は笑顔なんだろうか。

「ごめんなさい」

私が謝っても、兄の表情は変わらない。
なんでそんな優しい笑顔を浮かべているのか私には理解できない。

「手洗ったらごはんにするぞ。リビングに来いよ」

そう言って兄はリビングへ戻っていった。
そういえば珍しくエプロンなんて着ている。

この美味しそうな香りは兄の手料理なのだろうか。