そこからお互い何も言葉を交わさず、沈黙が流れた。
重たい空気。

音楽祭の休憩室で愛藍と話した空気と、何一つ変わらない。

雨は更に強くなる。
風も吹き始め、まるで嵐がやって来るかのような不気味な雰囲気だった。

そしてそれは私の心も同じ。
私の心も今は土砂降りの雨が降っている。

酷く落ち込んでいるのは事実だ。

しばらく時間を置いてこの重い空気を吹き飛ばしたのは愛藍の方だった。
同時に目を疑った。

何を思ったのか、私の目の前で愛藍は土下座をしている。

そして愛藍の声が商店街の中に響き渡る。

「茜、本当に悪かった!本当にごめんなさい!あの日の事、今更謝っても許してくれると思わない。茜にどれ程の傷を負わせたのか、やっておきながら正直わからない」

目の前の光景と彼の言葉に、私は慌てた。
同時に土下座をする愛藍の顔を上げようと、彼の両肩を持ち上げようとした。

『愛藍がそんなことする必要ない』って。

って、何やっているのさ!

「ちょ!顔あげてよ!なんでさ。なんで愛藍が謝るのさ!愛藍は悪いことなんてしていない!当たり前の事をしただけだよ!」

悪いのは、私。
本当に土下座しなきゃいけないのは私の方。

私が葵にいい加減な事を言ったから、あの日の事件に繋がった。
愛藍も、私と葵のか関係が崩れたことに腹が立ったのだろう。

だから愛藍は私をいじめた。
楽しかった日常が、私のせいでぶち壊された。

ねぇ、それでいいじゃん。
また腹が立ったら私を殴ればいい。
それで許してよ!

だから愛藍や葵は謝る必要なんてない。
本当に申し訳ないのは私の方だって。

でも私の考えは一蹴される。

「意味のわかんねえこと考えているんじゃねぇよ。知ってるんだろ?葵が黒沼逹に訴えた後の顔。笑ってたんだろ?どうみても、葵がお前を貶めようとした。それが俺らが悪いってことの何よりの証拠だ」

笑った?

確かにそうだ。
あの日、葵は笑っていた。

校長先生と黒沼に事情聴取されて部屋を出ていく時、葵は笑っていた。
それは今で鮮明に覚えている。

でも、そんなの関係ない。

「そんなことない。そんなの絶対に間違っている!愛藍も葵も悪くない!」

「だったらなんでお前をいじめる必要があった!仮に葵がお前のこと嫌いで関わりたくなかったら、縁切って疎遠になれば良かっただけの話じゃねぇか!」

「だから、私が悪いから。私が葵を貶めようとしたから。その復讐。葵が笑ったのも、貶めようとした私の残念な表情を見て笑った。『ざまあみろ』って。それでも物足りなかったから、私をいじめた。疎遠になんてなっても、怒りは収まらなかったんでしょ」

よくやく愛藍は顔を上げた。
それでいい。

謝らなければ、その怒った表情のままでいい。

でもその意味のわからない言葉はいらない。