お母さんは愛藍から私に視線を移す。

「あら、あなたもピアノやっているの?」

私に変わって愛藍が答える。

「コイツの方が俺より凄いっすよ、国内のデカイコンクールで優勝したくらいですし。俺より経験浅いくせによ」

優勝なんてしていない入賞だ。
勝手に株を上げるな。

そう思いながら私は後ろに立つ愛藍を睨み付ける。

と言うより、こんな話をしに来た訳じゃないのに・・・・。

一方で話に付いていけない草太は一人、玄関に向かって靴を脱ぐ。
靴と言っても学校のスリッパなのだけど。

そしてその息子の異変に、お母さんも気が付く。

「ちょっと草太?靴どうしたの?また無くしちゃったの?」

お母さんの言葉に、私は違和感を覚えた。
もしかして、『息子がいじめられている』ってことに気が付いていないの?

草太は悔しそうに本音を短く語る。
声は震えている。

「取られ、た。また、あいつらに」

草太は再び辛そうな表情を見せた。
その『辛い表情はもうしない』って約束したのに。

「ああ、あのお母さん」

「もう、何回無くせば気が済むの!お母さんあれほど言っているでしょ!」

愛藍の言葉を書き消すように。お母さんは草太に怒っていた。
草太の言葉を無視するように、お母さんは怒鳴った。

と言うか、怒る必要なんてないのに。
なんで草太だけが辛い思いしなければならないんだろう。

「あっごめんなさいね。でもこの子本当に物覚えが悪くて。テストの点数も悪いし、物もすぐに無くしてしまうし。何度も注意しているんだけど、全然治らないのよ。何かいい方法はないかしら」

我に帰ったお母さんは私達に苦笑いを見せる。
『出来の悪い息子なの』と言っているように、草太を嘲笑う。

・・・・・・・。

違う、そうじゃない。どうしてそんなことを言ってしまうんだろう。

どうして自分の子供である草太を信じられないんだろう。

これじゃあ草太が可哀想じゃんか!