少年の名前は宮野草太(ミヤノ ソウタ)。
大人しく優しい性格の小学五年生だ。

昔の葵みたいに背丈は高く、目が悪いのか眼鏡を掛けた小さな男の子。
勉強が苦手だけど、運動が得意みたい。
『体育の成績はいつも満点だ!』って、草太は目を輝かせて話してくれた。

そんな彼と二つ約束。

『もしまたいじめられたら、私達に必ず相談する』と言う約束した。
それと『今度三人でどこかに遊びに行こう』なんて約束もした。

そして約束を交わしていたらあっという間に時間が過ぎて、草太の家に着いた。
住宅街の中にある、二階建ての一軒家が草太の家みたいだ。

ここで草太と別れて、私達はそのまま帰っても良かった。
でも一軒家の小さな庭には、草太のお母さんが作業をしていた。

雨の中、綺麗に咲き乱れる花が咲いた花壇を、まるで我が子のように見守る草太のお母さん。

そんなお母さんは私達に気が付いた。
直後、お母さんは怖い表情で警戒する。

「誰?あなた達」

まあ、そりゃそうだよね。
息子が知らない人歩いていたら、親なら警戒するのが当たり前。

「えっと、草太くんの友達っす。って言っても信じてくれないっよね?」

私達は下手すりゃ通報される立場だ。
答えた愛藍も緊張しているのだろう。

だけど愛藍の顔を見たお母さんはなぜたか嬉しそうだった。
若い男が目の前にいるからか?

・・・・・いや、違った。

「ちょっとアンタ!ピアニストの柴田アラン君じゃないの?えっ、本物?」

その手のひらを返したようなお母さんの反応に、私達は一瞬で飲み込まれた。
愛藍も『まさか自分のことを知っていたのか』と、驚きを隠せない。

「えっと、そうです。柴田鉄也(シバタ テツヤ)と柴田藤子の息子の」

「うっそ!私、大ファンなのよ!昔ね、私もピアノやっていて。草太にも教えようかと思ってたのよ!ねぇ、よかったら草太に教えてくれない?」

お母さんに詰め寄られ、愛藍は現状を理解していないのだろう。
もちろん私もだ。

そんな中でも、愛藍は言葉を返していく。

「あーはい。時間が合えば。でも教えるならコイツの方が」

突然愛藍に肩を叩かれる私。
そして無理矢理、私を盾にするように愛藍に強い力で腕を引っ張られた。

いやいや、と言うかなんで私?
意味わかんない。

誰かに教えた経験もないのに。

と言うか突然腕を引っ張るな!
ちょっと痛いかったし・・・・。