「あの、えっと」

その愛藍の隣で、少年は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
そんな表情しなくていいのに。

男の子は私や愛藍の方を向いては下を向き、また私と愛藍を見るという目の回りそうな行動を見せていた。

まるで人見知り激しい私みたい。
私も初対面の人とは顔を見て話せないし。

一方の愛藍は男の子にも笑みを見せていた。
彼には似合わない優しい表情を浮かべて、お兄さんのような優しい言葉を男の子に掛けた。

「『茜ねぇちゃん、ありがとう』って言ってみな。お前のために、天津飯吐きそうって言ってんだ。吐いたらお前のせいだぞ」

『弱っている子に、いらん事をいうな』と、私は愛藍を睨み付けた。
本当に私をからかう姿勢は昔から変わっていない。

愛藍の言葉を聞いた少年はまた下を向く。
でも少し時間を置いてから少年は私の方を見た。

「あ、ありがとうございます。茜お姉さん」

そう言うと少年は恥ずかしそうに私から目を逸らした、
そして私も恥ずかしかったから、私も男の子から目を逸らす。

でも言葉は返す。

「えっと、どういたしまして。でいいのかな?愛藍」

誰かにお礼を言われたことなんて、多分人生で一度もない。
だからこそ反応に困る。

反応に困るから、横目で愛藍に助けを求めようとした。
けど・・・・・。

愛藍め。
『そんなことを聞かれても困る』みたいな表情をするな。

私だってそんなこと言われことないのに。
なんて返したら言ったらいいのかわからないのに・・・・・。

でも初めて見せた少年の笑顔を見た私は、とても嬉しかった。
私も自然と笑顔に変わっていた。

もしかして今日初めて笑ったかも
『笑う力って本当に凄い』といつも思わされる。
どんな状況でも、一度でも笑うと自然と元気が出る。

また頑張ろうと思わせてくれる。

愛藍とも向き合ってみようと思わされる。

私は愛藍の手にビニール傘があることに気が付いた。
そういえば『傘を買ってくる』って言ってどっか行っちゃったんだったっけ。

コンビニでも行ってたのかな?

それから私達は少年を家に送るまで三人で話をしながら歩いた。
愛藍が借りてきた一つしかない傘を三人で仲良く入りながら。

狭くてちょっと肩が濡れて冷えてしまったけど、そんなことを気にする間もなく楽しかった。

まるで、『あの頃』のように思えて嬉しかった。