朦朧とする意識の中、また少年がいじめられている悲鳴が聞こえた。
早く助けないと生きるのが嫌になってしまう。

なんとか立ち上がろうとするも、視界が曖昧。

だけどボヤけて見える残酷な光景の背後に、黒い影が見えた。
そして次々に聞こえる男の子の悲鳴。

でもこれは、『いじめていた彼らの悲鳴』だ。

「何やってんだ?大人数で、一人をいじめやがって」

その殺意がこもってそうな声に、私は聞き覚えがある。
それはさっきまで一緒にいた、柴田愛藍の声にそっくりだった。

って・・・・・え?

私の視界がしっかりした時にはいじめていた彼らが逃げる姿が目に焼き付いた。
『一体、何があったんだろう?』と思った私は少年の元へ振り返る。

そこには痛々しい姿の少年と、柴田愛藍の姿があった。

「大丈夫か?茜」

愛藍は笑っていた。
同時に、どこか申し訳なさそうな表情にも見えた。

「えっと、あれ?なんで愛藍が?」

現状を理解するのに私は時間がかかった。
『かつて私に暴力を振るっていた愛藍が、少年と私を助けてくれた』ってことを理解するのに、私は時間かかかった。

愛藍はまた私を見て無邪気に笑う。

「そんなに小学生のパンチが痛かったのか?」

「天津飯吐きそうになった」

そう言うと、愛藍の表情は一転。
慌てて私の背中を擦ってくれた。

「まじか、だったら洗面器とか。あっ、袋とか落ちてねぇか?あっ、買いにいかねぇとねぇよな!」

冗談なのに何を言っているんだろう愛藍。

「って吐かないわよ!吐いてどうするのさ。バカ」

苛立つ私だったが、すぐに違和感を感じた。

同時に懐かしく思えた。
ってかあれ?私って愛藍にこんな普通に喋れていたっけ。
さっきまでオドオドして、愛藍の顔なんてまともに見れていなかったのに。

もしかして、心の中で愛藍と向き合おうと思ったのかな?
昔のような彼の優しさに、助けられたからかな?

と言うか愛藍、昔と変わった気がする。

ってか、何この急展開・・・・。