ルビコン

彼の靴は学校のスリッパだった。
それだけじゃない。

よく見たらこの子傷だらけだ。
ランドセルや服も汚れている。

何よりこの子、あの時の私と同じ表情をしている。
寂しくて、悲しくて、まるで得体の知らない何かに飲み込まれるような恐怖感。

だからこの子、『学校でいじめられているんだ』って理解するのに私は時間はかからなかった。

そしてそれは何の前触れもなくなく突然始まる・・・・・。

「いたぞ!」

どこからから少年の声が聞こえる。
振り返ると男のグループが三人。

『友達かな?』なんて甘いことを一瞬だけ考えてしまったが、その『逆』だった。

いじめられている少年は彼らの存在に気付くと、彼らと反対方向に走り出す。
それが何を意味しているかも、私にはすぐにわかった。

少年を追いかける彼らがいじめのグループだ。
同じくらいの背丈、恐らく同じクラスメイトなんだろう。

大きな体の少年を中心に、他の二人の少年も彼を追い掛ける。

「おい!逃げるな!」

商店街の中でいじめグループの少年の声が響く。
そして彼らは逃げる少年を追う。

速い。
逃げる少年と彼らの走るスピードは一目瞭然。

このままでは捕まってしまいそうだ。
やがて彼らは私の横を通り過ぎ、少年を捕まえた。
少年はもがきながら抵抗するも相手は三人。

いつの間にか自分を守ることしか出来なくなっていた。

そしていじめグループの彼らの罵声と、少年の悲鳴が商店街に響く。
こんな時、もし商店街が昔のように賑わっていたら誰かが止めてくれるんだろうか。

一方の私は怖くて立ち竦んでいた。
まるで幼い頃の自分がいじめられているかのような光景に思わず目を逸らした。

逃げたいという気持ちが強くなる。
『誰か助けてくれないかな?』って、少年と同じ気持ちになって心の中で祈っている。

・・・・・。

馬鹿だな、私。
その子の味方は私しかいないっていうのに。

何をやっているんだろう。

『商店街の誰か』って、誰のことなんだろう。

ここには私しかいないのに。
私しか助けられないのに。

このままじゃあの子は一生苦しむのかもしれない。

私みたいに一生辛い過去を背負って、悲しい生きていかなければならない。